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《教示②》第三十回
「ということは、やはり何かありましたか?」
「ええ…。実は先生が仰せられた難行に掛からねばならぬのですが、どうも、良い手立てが浮かびませんで…」
左馬介は、あからさまに胸中を吐露した。
「そういうことでしたか…。私でよければ、何かいい手立てを考えましょう…」
「いや、そんな悠長な話ではないのです。明後日に妙義山へ出向く迄に、何とか考えねば駄目なのです…」
「そうでしたか…。で、その話を長谷川さんは御存知なんですか?」
「いいえ、未だ話してはおりません」
「それじゃ、これから二人で部屋へ行き、三人で手立てを考えるというのは如何です?」
「はあ、そうして戴ければ助かります…」
話はトントン拍子に進み、すんなりと纏まった。
左馬介と鴨下が長谷川の小部屋を訪うと、長谷川は寝仕度を始めたところだった。襖障子を開け、顔を出した長谷川の背向こうに、敷きかけの寝布団が見えたから、二人はそう感じた。長谷川の部屋は鴨下の部屋とは違い、そうは散らかっていなかった。




