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《教示②》第二十回
仰ぎ見た左馬介に、「戻ったようじゃの…。如何であった?」とだけ、幻妙斎は声をかけた。左馬介に背を向けて座す幻妙斎の言葉に、左馬介は絶えず観られていたかのような錯覚に陥った。
「はっ! どうにか、こうにか、終えてございます…」
「で、首尾よういったのか?」
「はっ! まずは、そのような…」
「馬鹿者!!」
幻妙斎は座したままの姿で、瞼をキッと見開き、激しく叱責した。左馬介には、その怒りの顔は見えず、滅多と怒らない幻妙斎に何故、自分が怒られているのかも分からない。ただただ冷たい岩肌に平伏して容赦を乞うのみであった。
「そなたには修行の何たるかが未だ分かっておらぬ。儂が命じたのは、剣を手にするということの誠の意味を知らしめる為よ」
幻妙斎は回り諄い云い方で左馬介に説いた。
「…仰せのことが、よく分かりません」
「ははは…。そのうち分かるわ。まあ、一年ばかりは無理やも知れぬが…」
小さく笑いつつ話を続ける幻妙斎の声には先程までの感情の昂りはなく、消え去っていた。




