《教示②》第一回
兎にも角にも試してみることが肝要…と、左馬介は思った。木刀を小刀で削り、それなりに刃先は鋭さを増した。というか、この木刀を肌身へ引けば、すっぱりと斬れて血飛沫が吹き出しそうなほど鋭敏な仕上がりなのである。木切れは薪が収納された小屋から似通った太さのものを調達し、縄に結わえて柿の木に結びつけた。道場の庭に昔からあるその柿の木に、左馬介は幾度も登ったことがある。秋の季節だけだが、腹が空いた時、それを満たす格好の手段なのであった。だから、縄を括りつけるのは至極、容易だった。洞窟の縄とほぼ同じ高さに等しい枝ぶりに括りつけ、左馬介は下へと降りた。さて、いよいよ試し打ちである。左馬介は深く息を一つ吸い、そして大きく一つ吐いた。
眼前の縄に結わえられた薪は、柿の木に吊るされ静止している。この状態で、まず大事と思われるのは最初の一撃である。この一撃を、しくじれば、恐らくは振り子の如き反動を引き起こし、益々、容易ならざる事態に至りそうである。ならば、まずは大事…というより、この最初の一撃に、事の成否の全てがかかっているとも云えた。左馬介は瞼を閉じ、ふたたび深く息を吸い、そして吐いた。束の間の時が流れた。




