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《教示①》第三十回

特に最近では、左馬介が隔日、抜けて妙義山へ行くことで、その当日は長谷川と鴨下の二人となり、全く道場稽古の態をなさなくなった。左馬介がいる今日のような日でも、人数としては二が三となっただけで、大した差異もなく、侘しさはこの上もなかった。閑古鳥が啼く…とは、正にこうした状況を云うのだろうと、左馬介は稽古の汗を拭いながらそう思えていた。幻妙斎が命じた縄先で揺れる木切れを叩き斬る策が定まり、少しは心に余裕めいたものが生じたことも、そうした想いが発露した所以(ゆえん)である。同じように汗を隣りで拭う鴨下も、向こうの長谷川も、左馬介のそんな想いを知ってか知らずか、呑気な笑い声で話に興じていた。左馬介が話には加わらず、身体を井戸水で拭おうと立ち上がった時、それに気づいた鴨下が長谷川との話をやめ、「左馬介さん、どちらへ?」と、真顔になり声をかけた。

「? いやあ…水で身体を拭こうと…」

 左馬介は驚いて振り返ると、単にそう返した。

「そうですか。…余りお話にならないんで、お疲れかと思い、長谷川さんと話しかけないようにしていたんですよ」

「なんだ、そうだったんですか。別に私は疲れておりませんので遠慮されず…」

 微笑して軽く頭を下げ、左馬介はその場を去った。妙に二人の心配りが嬉しかった。


                                教示① 完


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