《教示①》第二十六回
暖をとる為のものではない幾ヶ所か設けられた燭台の蠟燭が、時折り揺れながら輝くのみで、辺りにはそれ以外の熱源となるものは全く見当らないのであった。
━━ 縄に吊るされ、振り子の如く右や左にと揺れ動く一本の木切れ… ━━
それを如何にして叩き斬るか…。これは単に打ち叩くというのでは駄目なのである。振り子が反転する動作を起こす前に瞬時に叩き斬るのだ。打ち叩くのみでは縄は木刀の力を吸収し、激しい振り子の動きを起こして遠退くに違いない。かといって、力を加えず木切れを叩けば斬れはしまいし、へし折れることもないように思える。左馬介は、あれやこれやと頭の中で解決の術を想い描いた。そうこうするうちに時は流れた。洞窟の奥は外からの光が遮断されているから、大よその刻限すら推し量ることも出来ない。勘で恐らく一時ほどは経ったろう…とは思えても、正確なところは判る由もない。微かに烏の啼く声が耳に届かねば、既に夕刻近くであることを左馬介は遂うっかりと見逃すところであった。慌てて洞窟の出口への道を辿ると、外景が見える洞窟の入口より、暮れ泥む夕映えが射し込んでいた。空は、すっかり紅と橙の二色に彩られている。




