《教示①》第二十四回
相も変わらず、五尺飛びが繰り返される稽古の日々であったが、最近、左馬介は、己が身が幾らか軽くなったように感じていた。特に硬い岩盤に着地した折りの足裏に受ける感触である。なんとも口には表せない感触の違いなのだが、その足裏に受ける衝撃が以前に比べれば随分と柔らかになった…と思えるのだ。それだけ着地が上手くなったことも一つだが、足裏が岩盤に着く瞬時の身の熟しが以前とは変化しているようであった。これは左馬介の計算によるものではなく、自然と己が身に備わった受け身の術に思えたが、これが或る意味で幻妙斎が左馬介に対した指南だとも云えた。
「よしっ! 左馬介、飛び降りるのは、もうよかろう…」
そう、幻妙斎は云い、左馬介が、ほっと溜息をついた刹那、「次は、この木切れが折れるまで、以前、使わした木刀で打ちかかるがよい」と言葉を続けた。ふと、左馬介が上を仰ぐと、いつの間にか天井の鍾乳石に結わえられた一本の縄がある。その先に括られた木切れを幻妙斎は投げつけた。左馬介はその木切れが落ちてくるのを咄嗟に避けたが、木切れは縄に括られているから下の岩盤までは落下せず、反動により振り子の如く、大きく左右に揺れた。
「ひと言、云っておくが、寸分たりとも直に木切れに触れてはならぬ!」




