《教示①》第二十三回
「お前らしくないぞ、左馬介。そう深く気に病むこともなかろうが…」
長谷川は一応、先輩らしく優しく慰めた。剣筋の話ならば左馬介に上段からは話せないが、他の話題だと多少は諭す口調にもなれるのである。
何はともあれ、左馬介は長谷川の慰めを受けて少し気分が華やいだ。幻妙斎の意図するところは未だ解せた訳ではないが、それでも兎も角、続けてみよう…という気分に左馬介はなれたのである。
この日も堂所で三人が食膳を囲んだ。以前は客人身分の者達も共に食膳を囲んでいた時期があったことを、左馬介は以前、故あって道場を去った一馬から聞いたことがあった。蟹谷が客人身分となった頃より、それらの者達の賄いは外されていた。だから今は、僅かに三人が食膳を囲むだけなのである。幻妙斎が鴨下以降、門人を取らなくなったり、こうして場内が寂しくなったことは、既にこの道場の行く末を自らの死後、閉ざそうとする意志の表れに他ならないと最近、左馬介は気づくようになっていた。それは、妙義山へ足繁く通うほど顕著になった。漸く過去の沸々と滾った素朴な疑問が払拭されつつあったのである。その想いは、山中で交される師との片時の語らいの中で、少しずつ膨らんでいった。
時は流れ、左馬介の妙義山通いも二月が経とうとしていた。




