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《教示①》第二十二回
「と、いうと?」
「いやあ…」
左馬介は罰悪く、首筋を片方の手の平で撫でつけながら話をつづけた。
「隔日に行くことは行ってるんですが…」
「そんなことは分かっている」
「こんなことを云えば、先生に叱られるんですが…」
「勿体ぶらないで、はっきりものを申せ!」
じれたのか、長谷川は少し昂った。
「いつも五尺ばかりを跳ぶだけなんです…」
「なんだ、それは? さっぱり分からん」
「つまり…稽古が単調な跳び下りの繰り返しで、刀の指南などは全くして戴けんのです」
「ほお…」
少しは事情を察したのか、長谷川は鈍く合いの手を入れた。
「要は、何の為の妙義山なのかが分らんのです」
「そう焦ることもあるまいて…。先生のことだ、何かお考えがあってのことだと思うぞ」
「それはそうなんでしょうが…」




