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《教示①》第十九回

「別に(へつら)ってるんじゃないぞ。なあ、鴨下」

「ええ、そうですとも…」

「俺達には無縁の素質というか、生まれついてのもんだろうなあ…。なんか、そんなものをお前は持っているようだ。だから、俺達の分も頑張って、先生に報いてくれ」

 少し声を弱め、長谷川はそう静かに云い放った。左馬介は茶をを啜りながら、その言葉に無言で頷いた。開け放たれた戸板の向こうに妙義山の山桜が鮮やかに見える。時候はもう、春の(たけなわ)であった。

 三人での稽古が隔日となり、早や一ヶ月が経とうとしていた。既に左馬介が妙義山へ出向いた回数も月半ばの数となっていた。隔日ということもあり最初の三度ほどは勇んで出た左馬介も、流石に近頃は道場を出る折りも元気が萎えている。というのは幻妙斎が指南する稽古は、常に僅か五尺ばかりの高さの岩場から下へ飛び降りるのみなのである。だから気疲れが幾らか蓄積しているのだ。それを知ってか知らずか、長谷川も三人の稽古日には早めに切り上げるようにしていた。この日も左馬介が元気がない様を遠目に眺め、「かなり苦労しておるようだな…」と、誰にも聞き取れぬほどの小声で呟くように吐く長谷川であった。

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