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《教示①》第十四回

 声が響いて間もなく、左馬介の眼前に幻妙斎の座す姿が小さく現れた。距離からすれば、そう離れているようにも思えないが、それでも間近かというのでもない。左馬介は師の姿を見て歩を速めた。それに伴い、幻妙斎の姿は次第に大きさを増していく。やや緩慢な上り勾配の前方に、焚き木を燃して暖をとる幻妙斎の白髪の姿が橙色に浮かんで揺れていた。

 そして遂に、左馬介は幻妙斎が座す平坦な岩場まであと十数歩の所へ近づいた。幻妙斎と対峙する為には、石段状に上へと続く天然の岩場を登れば事は足る。が、その時、左馬介の気配を察知した幻妙斎が静かに両瞼を開けると、立ち上がって下の左馬介を見据えた。岩場を上がろうと仰ぎ見た左馬介の目線が、その見据えた師の眼差しと一瞬、合った。距離にして二間(けん)ばかりである。そして次の瞬間、幻妙斎は腰を低くして傍らに置いた木刀を鷲摑みにすると、下より少しずつ岩場を踏みしめて登る左馬介に向け勢いよく投げつけた。それも一瞬の出来事であった。驚いたのは左馬介である。上から速さを増して落ちる木刀を、咄嗟(とっさ)に素手で摑んでいた。恐らく他の門弟ならば身体を避け、木刀は岩場に転がって激しい音を発していたに違いなかった。それは矢張り、永年に渡る隠れ稽古の成果だといえた。

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