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《教示①》第十三回

 円広寺の鐘も遠方の為、耳を(そばだ)てないと聞き逃す微音だったから、左馬介にとっては、恐らくその頃合いとだけしか分からなかった。

 足元が悪く、ゴツゴツと起伏に富む洞窟を少し進むと、まず通路は左右に分岐した。しかし左馬介が迷うことはなかった。というのは、既に幻妙斎が(かざ)した蝋燭が通路を明々と照らしていたからである。それ故、左馬介としてはその灯りを頼りに進めばよかったのである。幻妙斎は来たる月に洞窟へ来るよう自分に云ったことを憶えていた…と、左馬介は或る種の心の(たかぶ)りを覚えるのだった。そして奥へ奥へと無心に進んでいく。春先だが山腹の外気は晩冬の冷たさを含んでいた。それが今、更に洞窟へと分け入っているのである。左馬介は次第に疼くような冷えを全身に感じつつあった。だが上手くしたもので、左馬介は身体に襲いかかる苦痛をそう永く感じないで済んだ。

 五十数歩、左馬介が足を進めた時、洞窟に響く聞き馴れた声が耳を捉えた。(まさ)しくそれは幻妙斎の声であった。

「よう参ったのう。もう少しじゃ…。儂はすぐ近くにおる。朝早うから首を長うして待っておったぞ…」

 辺りに谺して響く掠れ声は、どこか神懸っていた。

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