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《教示①》第十二回

 妙義山にある幻妙斎の籠る洞窟は、登り口より約四半時ばかりの所に位置した。既に陽気は春の候で、空には草雲雀(ひばり)が飛び交い高く(さえず)っていた。結局のところ左馬介は稽古着の上に、もう一枚、薄手を羽織り出立していた。春先とはいえ、少し登った山腹には未だ冷気が漂っているように思えたのである。

 (かつ)て登った経験のある左馬介は、そう迷うといったこともなく妙義山へと分け入った。地の者が間伐、(たきぎ)拾い、そして、食用茸(きのこ)を採る為に設けた山道が、細々とではあるが鮮明に上へ上へと続いている。躊躇(ちゅうちょ)することなく左馬介は先を急いだ。道場を出る前に厨房で握り飯を三ヶ、竹の皮に包み、沢庵二切れを握り飯の隙間へと挟んで持参していた。これで夕刻までは充分に腹具合が保てるだろう…という稚拙な算段である。妙義山の洞窟は葛西の者ならば誰もが知っている。ただ、その中は迷路のように入り組み、一度(ひとたび)迷えば、恐らくはふたたび外へ出ることが至難の業と思える要害の洞窟であった。それ故、地の者達は余程のことがない限り中へ入ることはなく、幻妙斎以外に地の利に()けた者はないようであった。その洞窟へ左馬介が分け入ったのは、予定していた辰の上刻である。勿論それは、陽射しの角度による左馬介の憶測であった。

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