《教示①》第一回
幻妙斎は道場の行く末をどう考えているのか? そのことが左馬介には推し量れなかった。既に稽古をする現場の門弟は、自分を含めても三人なのである。蟹谷、井上は去り、神代もこの春には去るのだ。残った四人は客人身分となり、直接には左馬介と対峙することもなくなっていた。時折り、場内で顔を合わせることもあったが、客人身分の者からは決めが無いにも拘らず、語りかけてはこなかった。軽い黙礼で顔を伏せ、足早に通り過ぎる姿は、客人身分となった者の処し方として、古くから慣習的に堀川道場では続いているようであった。年老いたとはいえ、変わることなく稽古場へ現れて床に寝そべるのは猫の獅子童子である。ふくよかな蕪顔の外観は以前と少しも遜色がない。左馬介が以前、一馬に訊いた話からすれば、今年で十四齢ばかりとなる。猫としてはもう充分に老年だが、年のわりには俊敏で元気な姿が左馬介の心を慰めた。その獅子童子が今朝の稽古場へも現れて、幻妙斎が本来、座るべき掛け軸棚前に誂えられた座布団上で背を上下させながら熟睡していた。それは今迄もよく見られる光景で、三人は、さして気に留めない。
流れる汗を拭き、三人は人心地がついた。左馬介はふと獅子童子を徐に見た。




