《剣聖③》第二十一回
更にもう一つ、神前で打つ柏手の音の響きが少し変化したのだが、これも一斉に行われる集団の中では、各自が自らの挙動に懸命で、誰も気づく、いや、気づける訳がなかった。
そして、そういった日々が続いていった。
幻妙斎からの沙汰を伝えるべく、影番役を仰せつかっている樋口が井上にその旨を話している。厨房で賄いの準備をする左馬介へ、偶然、その話が聞こえてきた。それによれば、今年はどうも新入りがいないらしい。そのことは、後日、左馬介以外の者にも報告された。今年だけという限られたものならいいのだが、こうした状況が続けば、数年後には門弟が消え去る可能性を示唆した。事実、鴨下を最後として左馬介が堀川を旅立つ頃に道場は閉ざされるのだが、それは扠置き、新入りが来ないのだから今年も鴨下との組稽古か…と、左馬介は意気消沈していた。だが反面、そうした心を咎める心が有った。実は、その心が左馬介の新たな技を育む原動力になるものであった。左馬介は、そのことに未だ気づいてはいない。
「そうか…。ということは、今年も鴨葱と左馬介だな」
「ああ…まあ、そうなる」
井上と樋口の話が続いている。




