表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
278/612

《剣聖③》第十八回

かといって、組替えを井上に申し出る訳にもいかない。:結局のところ、左馬介はそのまま我慢して鴨下の相手をする以外になかった。鴨下が極端に腕が(まず)いのか? といえば、そうなのではない。まあ、他の門弟達、特に客人身分となり稽古から外れた蟹谷、それに加えて、この場にいる井上、この場にはいないが時たま現れる影番の樋口達三人の凄腕は別としても、他の門弟達より多少は眼劣りがするといった程度なのである。だがそれは、他の門弟達から観た感覚なのであって、左馬介からすれば、かなり劣って観えた。それだけ左馬介の腕が上達していたとも云える。では、何が上達したのか? と訊ねられても、こうだ…と、しっかとは云えない。それは、口に出来ぬ眼に見えない性質のものだからである。全ての行いの(もとい)は、そうした心域の有りように根ざすのだが、剣の道とて、それは同じであった。左馬介は自らの腕が如何ほどのものかは分かり得ない。分かるとすれば、客観的な周囲の者達の観るところによるのである。しかし、鴨下との腕の差は誰の眼にも歴然としていて、左馬介にも無意識で感じられた。

 朝稽古が漸く終わったとき、鴨下は荒い息を隠すように前屈(かが)みになったが、上下への背の揺れは、それを隠せなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ