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《剣聖③》第十六回

 季節は巡り、夏が過ぎ、秋が来たかと思えば、いつの間にか冬が近づいていた。そして大晦日の総当り勝負が行われた。この年の左馬介は昨年とは違い、井上、樋口、神代には敗れたものの、他の者には勝って皆を唖然とさせた。やはり、日々の隠れ稽古の成果が表れたようだった。新入りの鴨下は新参者だから除くとしても、他の塚田、長沼、山上、それに長谷川などは、左馬介に敗れたのだから口惜しい以外の何ものでもない心境だった。それでも表立っては口に出来ず、その口惜しい想いは胸中へと納め、笑って左馬介を讃えるのである。この屈辱は如何ばかりであったかは想像するに難くない。勝ちは勝ち、負けは負けなのだから仕方がないが、こうした想いは、或る種、幻妙斎の教えに副ってはいなかった。幻妙斎が説く剣技は、技量もさりながら、心の有りようも重要なのである。こうした点から観れば、口惜しく想うその胸中はの心は未熟だ…ということに他ならない。鴨下などは入門初年ということもあり、左馬介に敗れたのが、さも当然だと思っているから、心の(わだかま)りなどは全くない。この鴨下の心の有りようは、或る種、幻妙斎の説く意に(かな)っているのだ。湯呑み茶碗に、たっぷり水を入れて振っても音はしない。逆に全く水が入っていなければ、当然これも振ったとて音はしない。

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