《剣聖③》第十四回
幻妙斎が何を考えて道場へ現れたのか…。それは新たな剣筋の芽生えが門弟達の孰れかにあるか否か…を知る為であった。そして、幻妙斎が感じ取った胸中は? と云えば、それはその後、自ずと全ての門弟達の知るところとなるのである。ただ、この時点では、左馬介を含む全ての門弟達が知る由もなかった。
その頃、幻妙斎は左馬介を含む門弟達のそうした心を知ってか知らずか、葛西に聳える妙義山の中腹にいた。この山の中腹には、古より涸れることなく漠々と落ち続ける五尋の瀧と呼ばれる瀧があった。幻妙斎は、瀧壺より少し離れた岩窟に座していた。何をするではなく両眼を頑なに閉じ、深く瞑想する態様は、正に修験道の行者か、或いは禅を結ぶ修行僧を彷彿とさせた。その姿には、剣の道が無限に続く険しい修行の道であることを如実に具現する何かが秘められていた。瀧より砕け落ちる水が奏でる自然の妙音が響いて岩窟へと入っていた。この幻妙斎と同じ場で、左馬介がこうして深く瞑想するのは、今少し時が流れた先のことである。
幻妙斎は何を会得しようとしているのか…、それは誰にも分からない。ただその姿は、自然に我が身を委ね、同一化しようとしているようであった。




