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《剣聖③》第十三回

 鴨下は左馬介の推論を敢えて否定しなかった。それは否定しようとしても否定しようがない故である。入門以来、半年ばかりの道場暮らしの身では、未だ堀川のことを、ああだこうだ…とは云えない鴨下であった。結局、二人は話の腰が折れ、幻妙斎の出現した意図について結論の出ぬまま別れ、各自の部屋へと戻った。

 夏場は葦張りの戸だから、打ち水をした前庭から戸を通って冷えた風が流れ込む。勿論、日中の酷暑は容赦なく襲うが、夏場稽古で午後の稽古がない日が十日ばかりあるから、バテるほどではない。この夏場稽古の場合、稽古は形のみだから、云わば、稽古は無きに等しいのだ。更に、土用の鰻が葛西宿の鰻政から届けられるのが慣例となっているので、身体の滋養にもなり、皆の楽しみの一つとなっていた。そんな状況下、幻妙斎が皆の前へ現れて後、三日が経った。事後、二日、三日目となるにつれ、沈黙に終始していたものが、少しずつ門弟達の会話も囁かれるようになっていた。幻妙斎が何ゆえ現れたのか…という素朴な疑問も、時の流れが洗い流す。ただ一人、左馬介だけが、早朝の隠れ稽古の素振りの中で、その意図を真摯(しんし)に考えていた。

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