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《剣聖③》第十二回
それに加え、少し訝しくさえ思えていた。
「私は幸いにも入門から間もなくお目にかかれる機会を得たのですが、皆さんはそんな機会に恵まれなかったということなのでしょうか?」
「いや、それはそうじゃないんです。現に私は入門の日に門前でお目にかかったんですから…。他の方々も全てとは云いませんが、有るとは 思いますよ」
「では、何ゆえ?」
「ああ、それはですね。道場での稽古中に、ああしてお座りになられた先生に検分された者は無かったからだと思います」
「なるほど、そういうことでしたか…」
鴨下は漸く得心できたのか、顔の強張った表情を緩めた。
「皆さん、恐らくは部屋へ籠られ、お考えになっておられると思うのですよ。第一、先生が検分される中での初めての稽古でしたからね。勿論、私の推測ですが…。私が入門する以前のことは分かりませんから、しかとは断言できませんが、一馬さんから聞いたところでは、そうです。それはさて置き、先生が検分された真意が何であるのか…と、考えるのが普通です」
「それは、そうでしょうね」




