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《剣聖③》第十回

 急に幻妙斎の声が飛び、左馬介はビクッ!驚愕(きょうがく)した。

「は、はいっ! …」

 思わず発した声は、ただの鸚鵡(おうむ)返しの空返事で、肯定、否定の(いず)れでもない。そうは云っても、幻妙斎が指摘した剣の工夫をした覚えは確かにあった。早朝の隠れ稽古で小屋へ籠っていた記憶が甦った。そして、その小屋に幻妙斎は現れ、自分が稽古する様を眺めていたのだ…と、左馬介は辿りつつ思った。それなのに、敢えて幻妙斎はそのことを口にしなかったのである。

「まあ、今後も励むがよかろう。…皆ものう」

 そう云うが早いか獅子童子をやんわり床へと降ろし、幻妙斎は素早く立ち上がった。そして、ふたたび宙へと舞い跳びトンボをきって床へ着地すると、疾風の如く忽然と消え失せた。誰の眼にも、とても老人の所業とは思えぬ敏捷(びんしょう)さであった。

 幻妙斎は消えたが、その後、誰一人として動かなかった。師に謁見できたという感慨が、ひたひたと井上以下、門弟達の心を浸していた。時は着実に流れているのだが、既に全員の稽古をしようという心は萎えていた。いや、それは萎えていたというよりは、放心状態に陥ったことで、稽古を継続することを亡失してしまった、と云った方がいいだろう。

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