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《剣聖②》第三十一回

「一人、いることはいるのですが、その兄は既に養子に貰われておりまして…」

 左馬介は一馬の言葉を耳にし、長い間、疎遠となっている兄の源五郎のことを、ふと想い出した。源五郎の境遇も、養子に貰われていった点では一馬の兄と同じだった。それに三人兄弟の点でも似通っている。要は、似た者同士の二人だということである。それ故、左馬介が入門した時から不思議と気心が合ったという訳でもないのだろうが、偶然にしては奇妙に一致している…と左馬介は思った。

「心配なことが起こりましたね。…同情致します」

 二人はいつの間にか畳上に対峙する姿勢で座っていた。午後の形稽古が迫っていた。一馬は暫し沈黙した後、立ちながら、

「では、これにて…」

 という言葉を残し、左馬介の小部屋から去った。決まり事とは云えないが、やがては一馬が道場から消える…という曖昧な寂しさが左馬介の胸中を揺らしていた。だが、そのこと自体が自らの剣を冴えさせるきっかけというのではない。

 その時、午後の稽古を告げる魚板を叩く音が左馬介の耳に響いた。井上が叩いていることは疑う余地がなかった。


                               剣聖② 完

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