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《剣聖②》第二十九回

 剣の道とは関係がない、茶屋の娘に傘を返す、というただそれだけの野暮用にも(かかわ)らず、妙に心浮かれる左馬介であった。といって、剣の修行に身が入らなくなった訳ではない。日々の道場稽古はいつものように励んだし、新しい剣筋を工夫することも決して忘れてはいない左馬介であった。その後、待望の閉門日が訪れ、漸く左馬介は水無月へ借りた傘を返しに出られた。しかし、生憎(あいにく)、目当ての娘はおらず、(あるじ)に訳を云って返すと戻った。心残りはあったが、これも運命か…と、仕方なく思え、そのまま幾日かが流れ去った。

「今日も降ってますねえ…」

 朝餉が終り、片付けをしている左馬介へ一馬が珍しく近づいてきて、厨房の小窓から外を眺めながら語りかけた。左馬介は驚いて振り向いたが、横で皿を片付けていた鴨下も同様に振り向いて一馬を見た。「ああ…一馬さんでしたか。何か用でも?」と、左馬介は言葉を返した。そう暑くはないのだが、梅雨独特の肌に纏わり付く湿気で、体感は全くよくない。

「なんだ、一馬さんでしたか。…梅雨に入って、蒸す日数(ひかず)が多くなりました」

 手先をふたたび動かしながら左馬介が話す。

「ええ…。忙しそうですから、四半時ほどしてから部屋へ寄ります」

 そう云った一馬の足は、もう動き出していた。

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