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《剣聖②》第二十七回

「有り難うございます。私は堀川道場の秋月と申します。ご好意、かたじけなく思います。近い内に必ずお返しに上がりますので…」

 と、左馬介は娘が差し出した番傘を手にして一礼した。

 左馬介が水無月を出ると、小降りになった葛西宿は急に人の往来が減り、賑わいの喧噪さえ失せて楚々としている。人の気配が消えたその分を補うかのように、傘の油紙に落ちる雨滴が左馬介の耳に響いていた。道場までの道程は妙に気が削がれ、左馬介の歩みは遅くなった。濡れた足袋の冷えが心地悪かったということもある。雨足は空の明るさが増すとともに次第と弱まり、道場に近づく頃には傘がいらないほどになっていた。

 左馬介が自分の小部屋へと戻ったのは、申の下刻前である。だから、夕刻の門限には何の問題もなかった。ただ、借りた傘を返さねばならない面倒さだけが心に(わだかま)った。腰掛け茶屋の娘が、『いつでも結構でございますから…』などと云った言葉が、部屋で小机に向かう左馬介の胸中に巡ったのである。いつでも…と娘が云ったとはいえ、そう長く放ってもおけまい…と、左馬介は思った。それに、心理にはない、━ 娘に逢いたい ━ という感情が含まれているのだから尚更であった。だから、急ぐとするか…と、左馬介は巡った。

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