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《旅立ち》第二十五回
そして、
「少しずつ入れないと、味が濃くなり過ぎて台無しになります。首尾よくいけば儲けものですが、危うい綱渡りです。入れ過ぎは、即、雷ですね」
と、笑いながら、
「私も入門した頃は、駄目にして叱られたことがありましたから、それ以降は肝に銘じております。貴方は、そのようなことの無きように…」と続け、一馬は後を濁した。
加えて、
「今日は、皆が朝稽古を終えて戻る迄に準備をやり終えるという、ただそれだけのことです。調理方を今日からというのは無理ですから、それは私がやります。貴方は配膳方を御願いします」
と云う。
「はいっ!」
そう云う以外にはない、停止した体勢の左馬介である。
「ならば、そこの膳を堂所の方へ運んで下さい。茶碗等は既に膳の上へ備えてあります」
「はいっ!」
左馬介は、ふたたびそれ以外にはない単調な返事を吐いて、勢いよく動き始めた。




