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《剣聖②》第十四回

 左馬介は喜平に軽く会釈すると、喜平が指で示した土間伝いに歩きだした。喜平は暫し茫然として、左馬介が去った方向を見続けた。裏へ左馬介が回り、辺りの様子を窺うように眺めると、確かに喜平が云ったように、雑然としていて、むさかった。勿論、この気分は左馬介個人の感覚であり、千鳥屋をよく知っている者達が如何に思っているかは別である。泊り客からは見えない造りの部分だから、それで旅籠の評判が悪くなるといったようなことはない。ただ、左馬介には、丁稚もいるのだから何故、片付けないのだろう

か? とは思えた。道場を出る時、手拭いを置き忘れたらしく、袴紐の辺りを弄ったが生憎(あいにく)、なかった。仕方がないので、(ほこり)が溜まった床机の上へ懐紙を広げて一枚置き、左馬介はゆったりと座った。昼過ぎまでは未だ三つばかりの時ある。そう思うと左馬介は、腹が空いている自分に、ふと気がついた。その時である。手代らしき男が盆を持って現れた。上手くしたもので、盆の上には皿に乗った握り飯がニケ、湯気を立てており、黄色い沢庵も三切ればかり乗っている。

「旦那様が、お腹を空かせておられるようだからと…」

 手代は語尾を暈して口を(つぐ)んだ。何故、腹が空いているのが分かったのかを左馬介が訊くと、手代は小さく笑いながら、

「『腹を鳴らされていたよ』と仰せで…」と、また暈して云った。

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