《剣聖②》第八回
「そうでしたか…。何か委細でも分かりましたら…」
「はあ…。そういや、私が振り向いた時、幻妙斎先生がフワリと舞い降りられたのは記憶しておりますだ。そのことは鴨下様にも、お話したと、ぞんじますだが…」
「はい、それは私も鴨下さんから訊き及んでおります。…他には?」
左馬介は、なおも、しつこく食い下がる。
「……仕草だけだども、幻妙斎先生がお持ちの杖を一、二度、刀のように振られ、何やら蟹谷様に仰せでしただ…」
「一、二度、杖を振られた…。これは面妖な…」
「蟹谷様は、その振りを見られて、頷いておいででしただ。恐らくは何かの教えをされたんでござんしょう」
これ以上は訊いても分かりそうにない。自分が見ていたのなら多少は分かるだろうが…とは思う左馬介だったが、見ていないものは仕方がない。ひとまずは諦め、撤収することにした。
次の朝、ふと閃いて、左馬介は月に二度ある道場の門が閉ざされる閉門日に外出し、蟹谷から直接、訊いてみようと思った。三日後が、その十五日だった。その為には、出入届を管理番に出さねばならない決めがある。上手くしたもので、新入りの鴨下が入門した時から、この管理番は一馬から左馬介に引き継がれていた。




