218/612
《剣聖①》第十八回
「ああ…そのことですか。一概に、こうだとはお答えしかねます。皆さん、それぞれですから…。それに、私もそうは詳しくないので…」
「例えば…で、結構なのですが…」
「そうですねえ。或る方は、腕を認められてさる藩へ仕官されましたし、中には御大身へ養子に入られた方も。ああ、そうそう…。変わったところでは、大道芸で蝦蟇の油を売っておいでの方もおられますよ」
「人それぞれなのですね?」
「ええ、人それぞれです。境遇は、皆さん違いますから…」
左馬介は、それなりに腕を磨き、道場を去っていった者達のその後が知りたかったのだ。自分も孰れは道場を去る時が来る。それ故、道場を去った後の生きざまに一抹の不安を覚えたのである。
その後、二人が宴席へと戻り、一時半が経った。
「では皆の衆、そろそろ戻るとするか。余り酔いが回らぬ内にな」
井上が急に大声を出した。酔いが回っているとはいえ、流石に師範代だけのことはあり、飲み惚けている訳ではない。芯のところでは、割合、しっかりとしているのだ。皆を無事に道場へと連れ戻らねばならない…という責任感からである。




