《旅立ち》第二十一回
この疑念は、かつて以前、左馬介が不審を抱いた道場に必要な諸経費の出所と相俟って、左馬介が問題視するところであったが、納得できる、事の真実を知るのは数ヶ月ばかり先である。
夕餉を全員で食する堂所と呼ばれる大広間は厨房続きになっていて、屋根まで吹き抜けの構造だった。日々の煤煙によって、梁や棟木、それに柄柱などは黒々と不気味である。所々に立てられた蝋燭の燭台に照らされ、門弟達の顔が怪しく揺れた。夕飯は朝に炊かれた残飯だから、当然、冷や飯である。ほとんどの者は湯漬けにして掻き込むようにそれを食らった。惣菜に焼き魚が出るなどは良い方で、大よそは香の物だけの日が多いと一馬は云った。
「それは無論です。飯は毎日ですからねぇ。…かといって、一汁一菜が日々ですと、身体が持ちませんし…」
と云いながら、一馬は既に食べ終えていた。左馬介は、まだ半分方は残している。闊達な一馬の食べ様に、左馬介は驚かされるのみである。恰もそれは、食べるというよりは、胃の腑へ早々に納めると云った方がよい食べ様であった。
「何を考えておられるのですか? 早く食べて仕舞わないと、後の片付けもありますから、就寝までの貴方の時が無くなってしまいますよ」




