《剣聖①》第五回
当の本人の左馬介も、以前よりか木刀が軽く捌けることを自覚しながら一馬に対している。何が幸いするか分からぬ…と、左馬介は思った。━━ 剣聖への道 ━━ それは程遠いに違いない。左馬介がそこ
へ辿り着くには、まず、多くの門弟達の頂点に立つ技を極めねばならないのだろう。隠れて行う早朝の素振り稽古は、勿論、剣の捌き方を磨けることにはなる。だが、抜きん出た技を自らが工夫して編み出さねば、門弟の中で少し腕が上達した…程度のことで五年が終わってしまうのではないか…。左馬介は稽古の合間、面防具を取って汗を拭きながら、そう巡っていた。
左馬介が入門した時とは異なり、幻妙斎は全く姿を現さない一馬の言によれば、それが当然であり、左馬介の入門に際して幻妙斎が姿を見せたことの方が、むしろ特異だということらしい。それに、入門以降も折りに触れ、左馬介の前へ幻妙斎は姿を見せた。自分だけが何故…という謎は未だに解けず、この先も解けそうにないが、左馬介は、一度でいいから自分から出向き、会ってみたい…とは思った。今迄は全てが一方的で、幻妙斎の出没に終始したからである。だがそうなると、何処へ出向けばいいのかが問題となる。




