《騒ぎ》第二十回
「いいかぁ!! 恐らくは、千鳥屋の用心棒の仕業に違ぇねえ。親分の仇討ちだ。討ち漏らすんじゃねえぞぉ!!」
政太郎は子分達を見回し、急に怒鳴り声を張り上げた。その剣幕に子分達の気勢もあがり、誰彼ともなく、「オオーッ!!」っと、雄叫びが起きた。総勢三十二名は、襷、鉢巻、手甲、脚絆の出で立ちで、政太郎が名を呼ぶ順に、土間に積み置かれた刀、数十本を一本ずつ手にすると、戸口から出て行く。勿論、向かう先は、云わずと知れた五町離れた千鳥屋である。戸口を出れば、ざわつきながらも子分達は全員が揃うまで暫し待つ。最後に政太郎、熊次が戸口を出て外へと現れた。その後ろには、いつの間にかお紋の姿がある。
「よぉ~し、行くぞぉ!!」
熊次が子分達をぐるっと見回して、厳しく指図をした。お紋が全員の後ろ姿に切り火を打った。カチッ、カチッ! という独特の高い音が辺りに谺した。誰が云うともなく二列の隊列を組
み、堂々と道筋を闊歩する姿は、葛西の街衆の眼を引き圧巻で、腕が立つかは別として、それなりに強面には映った。
「おい、見ろよ。五郎蔵一家のお通りだぜ。どこへ行くんだ?」
「さあ…分からねえ。…でもよう、襷掛けだから、どこぞへ殴り込むんだろうが、仰々しいぜ。そんな相手になる奴がこの葛西にいたか?」




