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《騒ぎ》第十八回

 僅かに一人、かろうじて宿泊客はあったが、それも年老いて、いつ倒れても(おか)しくない奇妙な男であった。伊勢参りの道中だと云うその老いた男は、一つ向うの溝切宿で路銀を()られたのだ…と千鳥屋の番頭に泣き泣き語った。そんなことで仕方なく泊めてやった・・という訳ありの客だった。だから、その男を除けば、客は皆目なく、閑居だということになる。そんな事情があるからでもないのだろうが、用心棒役で、どっぺり構える山上は、鼻毛を指先で引き抜き、大欠伸を一つ打った。

「先生、もう、ようございますから…。お眠りになって下さいまし」

 夜も更け、店の戸締りを済ませた番頭が奥の部屋へ消えると、入れ違えに現れた主人の喜平が、静かに山上へそう告げた。山上は、毎夜の決め事になっている故か、喜平の言動に、さして驚くでもなく、「左様か・・」と、惰性のように、ひと言吐いて頷くと、別棟の寝屋へと下がっていった。

 その夜は、いつにも増して蒸し暑かった。毎夕は必ずといっていいほどに降る夕立が、この日に限っては降らなかったということもある。

 別棟に下がった山上は、徳利を傍らへと置き、しんみりと茶碗で寝酒を飲んでいる。茶碗を握る手と、もう片方の団扇を握った両手が、小忙しく動く。その時、天井から声がした。

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