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《騒ぎ》第十六回
その声に、熊次は驚愕した。
「ええっ!! そ、そんな馬鹿な!」
数人の未だ酔い潰れていない子分連中も驚きの色を隠し切れない。熊次は、ふらつきながらも五郎蔵の遺体が眠る部屋へと走っていく。当然、その後ろに数人の子分達も従った。
五郎蔵の首は、確かに消えていた。
「い、いったい、どこのどいつが親分を! …」
そう熊次が叫ぶ声も、余りの酷さに、どこか湿りがちである。布団から流れ出た血糊が、いつの間にか畳をべっとり、赤く染めている。
「この辺りで、これだけの遣い手となりゃあ、堀川の奴らってことになりやすが…」
「そうそう、そうに違ぇねぇ。いや、待てよ。そういや、千鳥屋が雇った用心棒ですが、確か…堀川の者って聞きやしたぜ」
三下二人が、左右から熊次を取り囲んで息巻く。
「そいつの仕業だって云うのか?」
「そ、そうとは限りやせんが、スッパリ斬った斬り口ゃ、堀川一刀流に違ぇありやせんぜ」
「それは、そうだな…」
熊次も堀川一刀流の斬り口だとは思った。




