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え、うそ、何これ?
目の前の男の人、名前はショウって言ったっけ。
その人、アタシの服を脱がせて、下着だけにしたところで、固まってしまっていた。
「どうしたの……?」
アタシは声をかけてみるけど、何の反応もない。
ゆっくりと身体を起こし、ショウの様子を見た。
ショウの身体が、ビキビキという乾いた音とともに、変なものに変わり始めていた。
その全身を、銀色のぬるぬるしたものがあっという間に広がって、ショウの身体を包み込んでいく。そしてその銀色はヨロイみたいな形になって、ぴったりと貼りついてしまった。
この銀色には覚えがあった。見たことがあるわけではないけれど、アタシの心がそう知らせていた。
コイツらは、アタシの大嫌いな、冷たくて寒いものだ。
そいつを見るだけで、そいつを感じるだけで、心の底にある氷が急激に増量して、体全体を凍えさせるような感覚がする。
アタシは下着姿のまま布団から飛び上がり、そいつから離れた。
銀色の化け物になっちゃったそいつ、顔の部分だけはショウのそれが残ってたけど、表情はさっきまでの明るかったショウのそれでは無かった。
その顔がアタシの方をちらりと見ていった。
「ど、どうも……はじめまして」そのたどたどしい挨拶に、一瞬アタシの心は拍子抜けしてしまう。
「アンタ、何なの……?」あくまでも警戒心は緩めずに、そいつに問いかける。
「ぼ、ぼくは……アンセム。そして、えぇと名前は・・・ツヴァイです」
外見に似合わず、弱々しいしゃべり方だった。しかしショウの言葉ではないのは明らかだった。
「アンセムは、あなたを消去することを決定しました」
その言葉と共に、ツヴァイとかいう奴は右腕を突き出した。
その腕はそれまでの二倍は太くなっていて、そしてその先には、クワガタの角のような細いものが三本付いた機械がそびえていた。
その三本の先端に、銀色の光が集まる。
とっさにアタシは身体を左側に投げた。同時にその銀色の光の弾が、ベッドの一部を霞め、アタシの元いた場所に命中する。
その光が触れたベッドや床は煙を上げて焼け焦げていた。
しかしアタシにはそれが冷たくて寒いものだと分かっていた。あれに当たったら、アタシの身体が、その中にあるアタシの意識が、冷たさに蝕まれてしまう。
二発三発と、そいつは続けざまに弾を出してくる。イスやら机やらがいろいろなところに置かれているこの狭い空間で、アタシは必死に身体を動かして避けた。
身体の動きにあわせておっぱいがぶるんぶるんと揺れて全身に変な感触が走る。身につけた白い下着ももう最初の位置にはなく、今にも外れそうな状態になっている。しかしそんなことは気にしてる余裕はない。
どうすればいいの?アタシを消す?冗談じゃない、折角この世界に出てこられたんだ。簡単に消されてたまるもんか!
どくん
アタシの意識の底。
その中にある氷の洞窟に、一点の光が生まれた。
それはあっという間に広がって、アタシの意識全体を包み込む。
この光、すごくあったかい。
そうだ、アタシが生まれたときー元いた場所から冷たくて寒い場所から解放されたとき、アタシを包み込んで、アタシという存在を作り出してくれたのは、この光だ。
そんな光に包まれたアタシは、だんだんと心が落ち着いてきた。アタシは目を閉じて自分の中に意識を集中した。
ツヴァイも、そんなアタシの行動を怪しいと思ったのか、右手を一旦下げる。
光よ、アタシに力をちょうだい。
その思いと共に、光がアタシという殻を破り、世界にあふれ出た。
目を上げると、下着しか身につけていないアタシの身体が、光に包まれていた。
その色は……そうだ、さっき学校を出るときアタシを照らし出してくれた、あの太陽の色だ。あったかくて心が落ち着く、そんな色の光だ。
アタシの両腕に、光が集まっていた。
「なんだ、それ……危険!」
アタシの身体に起こったそれを、どうやら相手はただ事ではないと認識したらしい。たちまち右腕を突き出して光弾を放ってくる。
アタシはそれを避けた。今までよりも早く動けるようになっている!おかげで今のような回避ができた。
すかさずアタシは左腕を前に突き出し、その脇に右腕を添える。両腕を包む光が左腕に集中する。
その瞬間、右腕に込めていた力を抜いた!
ビュウン!
左腕に集まった光が、矢の形になって、目の前の標的に飛んでいく。
そしてその光の矢は、相手の右腕の武器に突き刺さった。ツヴァイは右腕を大きく仰け反らせた。その勢いで、武器の先端に付いていた三本の爪の一本が吹き飛ぶ。
吹き飛んだ爪は地面に落ちると、シュッと跡形も残さず消えていった。
「その力は……やっぱりプロメテウス」
常に不安を帯びたような暗い顔をしたツヴァイの表情に、ますます暗くなった。
これだ、このあったかい光こそ、アタシがここにいられる理由。
そして、ここに居続けられる理由だ!