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3:ex

そいつの身体が、細かな輝きとともにどんどん変貌していく。

飾り付けに使うキラキラーラメを全体にまぶしたようになった身体が、どんどんと変貌していくのだ。

黒い短髪だった髪は、糸を引っ張り出すようにグイグイと延びていく。延びるだけではない、色もはっきりとした黒から、月の光のような金色に、根元の方から変わっていくのだ。そしてその先端はくるっと巻いたパーマ状態になる。

半袖の制服から素肌を出している腕で、必死にそれを押さえる。男にしては弱々しい印象だったが、ある程度は毛も生えていて、それなりの太さもあった腕。

その腕も、キラキラとともに石膏の彫刻のように白くて形の整った、ほっそりとしたものへと変わっていく。

そいつがそんな頭を抑えるために腕を上げると、今度は身体の方もその変化が露わになる。

胸の辺りが、むくむくと膨らんでいくのだ。そいつは苦しさを押さえるためか上のボタンをいくつか開いていて、ワイシャツの下の白い肌着が露わになっていたが、その肌着をぐいぐいを押し上げるように、その下に現れた胸の膨らみが大きくなっていくのだった。

胸の変化を押さえるために、そいつは腕を再び胸のところに下ろした。先端にパーマのかかった金髪がさらりと下に向かって落ちる。

胸の膨らみは止まらず、シャツからはみ出て谷間らしいものを作っていた。膨らみのちょうど中心のあたりにはぽつりと突起らしいものが見える。


そんな非現実的な光景を目の当たりにした俺は、性的な興奮を覚える余裕すらなかった。

ただただ、目の前で起きている異常事態を呆然と見ていることしかできなかった。


俺の名前は田村アキト

須的市第一高校、1年5組に通う男子高校生だ。

自分で自分を特徴づけるなら、スポーツ少年といったところか。別にそう呼ばれたことはないけど、小学校からずっと何かのスポーツを続けてきたし。小学校時代はサッカーで、中学以降はバスケットボールだ。

とはいっても、スポーツ以外はフツーの男子高校生だ。成績は平均ラインを上下するくらい。ルックスも中の上といったところだ(中学時代にラブレターを何枚かもらったこともあるし)

そんな俺が、こんな現実的でない光景を目の当たりにしちまったのは、一体何に原因があるというのだろう。


そこに至るまでの経過はシンプルだった。

登校した俺はカバンを置くと、9組の上田の元に出向いた。バスケ部の練習日程の相談のためだ。メッセージのやりとりでもいいのだが、どうも自分の身体を動かす方が性に合うのだ。

そしてその帰りに、うめき声を聞いた。

それは生徒があまり使わない、校舎の奥の方にある階段の方から聞こえてきた。それだけでは男のものか女のものなのかは分からなかったが、人のうめき声であることは確かだった。

一度は無視していこうと思ったけど、二度三度と続いてそれは聞こえた。

さすがに俺も無視は出来ず、「おーい、そんなところでどうしたんだー」と声をかけながら、そちらの方に近づいていった。

そうしたら、そこにそいつがいたのだ。


目の前のそいつは動きが収まっていた。

そいつはむくりと起き上がると、思い切りのけ反って顔を覆っていた金髪を後方へと追いやった。

露わになった顔は、美人という言葉では足りないくらいに整っていた。ぱっちりと描かれた瞳、やや暗い中でも潤いと彩りがはっきり自己主張している赤い唇。しかし彫りが深いわけではなく、日本人に近い顔立ちだ。

年齢は分からない。俺と同い年と言われればそう見えるが、10歳は上といわれても納得できるほどの大人っぽさも備わっている。

そんな美しい顔が、俺の方をじっと見ていた。彼女の目線は俺のそれとほぼ同じ高さにある。

そんな彼女に見つめられて、俺は完全に硬直してしまった。

全く理解できない現象を見てしまったので半分、そして彼女が全身から醸し出す色気にあてられてしまったので半分だ。

「ねぇ、寒いんだけど……」

彼女はささやくような声でそういった。吐息に混ぜて出されたような色気たっぷりの声が、ますます俺の本能を刺激した。そして刺激が強まれば強まるほど、俺の硬直も増していった。

「ねぇ……!」

言葉と共に、彼女は腕を伸ばしてきた。

むぎゅう!

彼女は俺の身体をぎゅっと引き寄せて抱きしめたのだ。俺に抵抗や拒否する時間など与えず、瞬時に腕を俺の背中に回して、そのまま身体を自分の方に引き寄せていた。

俺の顔面を、マシュマロのように柔らかな感触が包み込んだ。それと同時に甘くてふわふわした香りが嗅覚を支配する。

「うーん、やっぱりあったかーい」嬉しそうな彼女の言葉が、頭の上から聞こえた。それと同時に彼女の抱きしめる力も強くなる。

この時点で、俺はもう何もかもがどうでもよくなっていた。彼女の美麗な顔から、豊満な体から、その行動から、あらゆる方向から俺に攻めかかって来る色気に、もう抵抗のしようが無かった。

「……あれ?」

彼女の力が少し緩んだ。その瞬間、俺は全身の支えを失う形になり、その場に崩れ落ちた。彼女は下に落ちた俺の顔をじいっと見つめている。

「あれぇ、嬉しくないの?普通の男の人なら、ここでもっといろんなことをしてくれるのにぃ……昨日の彼だって」

「……」何を言っているのか分からない、何も言えない。何もできない。一体俺は何をすればいいのだ。

彼女の方に向かっていくべきだというのか、何かしろというのか。

しかし残念ながら俺には「そうすればいい」とことが頭に浮かんでこなかった。

彼女の色気に完全にあてられたのもそうだが、何よりその……俺にはそんな経験なんかなかったから。彼女がいたことはあるけど、プラトニックな付き合いのまま終わったのだから。

何より、こんな日本人離れした豊満な金髪美女に抱きしめられるなど、今後経験できるとすら思っていなかった。

彼女は不思議そうな顔のまま、周囲を見回した。俺の身体……俺の上半身から下半身まで。むろん俺の下半身にある例のブツは完全硬直の状態にあるのだが、流石に学生服のズボンの上からでは分からないだろう。

そして彼女の視線は、自分の服装にたどりついた。そして何か思いついたような表情を浮かべ

「あ、そっか。この服がいけないんだ……完全に男の子の服だもんねぇ。昨日もTシャツのままだったし」

いや、そんなことではなく……そう思ったけれど、言葉にはならない。

「ちょっと待ってねぇ。確かこの服に形変えられるはずだから……」彼女は俺のことに構いもせず、次の動作に移った。

彼女はすっと立ち姿に戻り、目を閉じた。精神統一でもしているのだろうか。彼女の注目が俺から離れたことで、少しは考える余裕も出来る

……ことはなかった。再び異常な事態が目の前で起こり始めた。

今度は彼女の身体を覆っていた男子用の学生服の方がキラキラの粒子に変わったと思うと、その全体的な形状を変化させ始めたのだ。

上半身の白いシャツはそれほど形を変えない。しかし形状はそのまま、形がどんどん小さくなっていく。

下半身の方は、二本の脚を覆っていたズボンがシュルシュルと縮んでいき、腰の少し下あたりでぱっと周囲に広がった。

その他、靴下や靴といった装飾品も、女子のものに形を変えた。

「うーん、ちょーっと小さいけど、ま、これでおっけーかなっと……どう、似合ってる?」

目の前にいる彼女は、夏用の女子学生服を着た姿に変わっていた。

しかし似合っているかといえばそうではない。いや、これは悪い意味ではなくて……

彼女が自分で言った通り、来ている制服のサイズが明らかに彼女の体型と身長に合ってないのだ。

女子用の白いシャツ、左前になったことと大きさ以外は違わないように見えるが、彼女のボインと膨らんだ胸のふくらみは抑えきれず、ボタンの上三つほどが開きっ放しになって、その膨らみの多くと、それを支える白いレース状のブラジャーの姿を、外に晒してしまっている。

さらに膨らみに押し上げられているせいで、シャツの裾が全身を覆いきれず、へそを中心とした腹部の辺りには白い肌が露出してしまっている。

極めつけはスカート。これも長い長い脚を持つ彼女の下半身には合わず、膝上でいうと40cm以上はるだろう、それくらいのところまでしかない。

まして俺は座り込んでしまっているので、視線は下にある。そこから彼女の顔に向かって視線を挙げようとすると……スカートの中に、白とおぼわしき下着がはっきりと見えてしまっているのだ。

というか、これでは余計に寒さを増しているのでは?そんなつっこみも頭に浮かんだが、口にする余裕はなかった。

彼女は再び俺の身体を抱きしめてきた。俺の身体の暖かさを堪能するかのように、背中に回した手であちこちをなで回す。

そして、顔をこちらに近づけてきた。

こちらからしてこいという意味なのか。いいのか、本当にいいのか。

俺の本能がようやく活動を始めてくれそうだった。その本能に身を任せれば、するべきことは分かっているはずだ。

しかしそこで、別の音が鳴った。

キーンコーンカーンコーン

チャイムだった。HR開始の合図だった。

途端に俺は我に返ってしまった。そして目の前に迫る顔に何をしていいのか分からなくなってしまった。

彼女もその音に合わせて、顔を放した。

「……もういいよ」

そういって彼女は立ち上がった。

「もうちょっと度胸あったらよかったんだけどね、でもあったかかったしいいや、ありがと」

かすかな笑みを浮かべて、彼女はそのあらゆる箇所が短い制服をはためかせて去っていった。


……俺の硬直は、それから五分間は解けなかった。

教室に戻ったときはとっくにHRは終わり、授業は始まっていた。

遅刻の理由を思いつくのに、とても苦労した。

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