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TSF好きとして、ようやく本能が求めるものを書き出せたと感じます。

俺の名前は堀江シンゴ。

29歳独身。職業はシステムエンジニアで、地方都市・須的市にあるデータセンターで、とある大企業の24時間稼働のシステムの運用管理を担当している。

これは、6月に入った頃のある夜、俺が体験した話だ。


クーラーの効いた店を出た瞬間に、湿気のこもった空気がむわっと襲いかかってくる。

気温自体は大したことがないが、湿度の高い空気というのはあまり気分の良いものではない。まして多量の酒で酩酊しているところに直撃する湿気は、不快さが数倍にも増す。

「またのお越しを~」ドアが閉まる間際に店員の声が聞こえてくるが、果たして次の機会はあるだろうか。

料理も酒も決して悪いものではなかったが、良くも悪くも値段相応と言ったところだった。少なくとも日本酒に関しちゃ、前に行った通りの隅にある店の方が上質なものを出していた。

……そんなことを考えつつも、俺はビールをジョッキで5杯、日本酒を瓶一本、おまけにウイスキーをロックで一杯やってしまったのだが。一人でいても、仕事のことを思い出すだけでわりと酒は進むものだ。

この一人飲みも、何回目になるだろうか。

俺が二年前から職場としているこの須的市は、IT企業が多く事務所や本社を構える企業都市だ。

そこに務める人間のニーズに合わせて飲食店や居酒屋の集まる繁華街が、地方都市のわりに発達している。古くからの店もあるので、どちらが先かというのは鶏か卵かだ。

しかし、そうした店たちを集団で利用できたのは、この一年で二回しかなかった。

俺の職場は、24時間体制で運用される情報管理システム、その技術管理だった。


腕時計を見ると、日付が変わるまであと30分と言ったところだ。終電を気にしなくていいというのが地元飲みのいいところだ。

さて、誰も出迎えを待っていない自宅を目指すべく、俺は繁華街を出口に向かって歩もうとした。

そこで、それが目に入った。

よろよろとした覚束ない足取りだった。しかし酒の入った千鳥足とは違う。一歩一歩が小さく、その一歩ごとに進む方向がころころと変わっている状態だった。

身長は大きく、172の俺と大して変わらないだろう。頭からは長い金髪ー遠くから見てもはっきり分かるくらいの金色だったーが垂れ下がっていて、その顔ははっきりと見えない。

そして着ている服ーこれもその人影の正体が確かにならない原因だったが、それはTシャツに短パンといった、遠目でも目立つ金髪に対して地味な服装だった。

その男とも女とも判断の付かない、はっきりいって怪しげな人影を、周囲の人間は避けるように進んでいく。何しろその歩調が安定していないので、何人もの人間がぶつかりそうになり、あやうくそれを避けていた。

俺も、そんな案配でそれの横を通り抜けようとした。

しかし、足取りが覚束なかったのは俺の方だった。そいつを避けようとしてバランスを崩し、逆にそいつの方に身体が傾いてしまった。

自分とそいつの身体を守ろうと、俺は反射的に両腕をあげ、いや抱き留めていた。

瞬間、手のひらに柔らかい感触が伝わった。そいつの性別が女だということはここで初めて認識できた。

身体が密着し、その感触が全身に伝わってくる。上半身には特に柔らかく包み込まれるような感触が。その膨らみの大きさが相当のものであることも、

俺は金髪に覆われたそいつの頭に顔を近づけた。甘さと艶やかさの入り交じったような香りに嗅覚を刺激される。

そっと髪を指先でのけると、そいつの顔がはっきりと見えた。目も鼻も口も、線が整っていてかなり端正な顔立ちだった。年齢は分からない。10代の幼さも残ってる一方で、20代後半の女に見える色気もにじみ出ていた。

そんなきれいな顔の一方で、そいつの目は虚ろだった。パッチリと開かれた目は、どこを見ているのか分からない。俺に抱きしめられているにも関わらず、俺のことなど目に入らず、どこでもない空を見ているといった感じだ。

赤く潤った唇がかすかに動き、ボソボソと何かをつぶやいていた。

「どうした……?」俺はその口に耳を寄せた。彼女の吐息とともに、その言葉が耳に伝わる。

「寒い、寒いの……」

理解できずに俺はフリーズしてしまった。酔った頭でなくても理解は出来なかっただろう。

寒い?今は6月の夜。正確な予報を見たわけではないが、今夜の気温は20℃前後というところか。そんな中でTシャツ一枚でいれば寒く感じるのも当然だ。一度はその女としての魅力に流されそうになったが、再びこの女を不審に思う気持ちの方が強くなってしまった。

しかし、彼女の次にとった行動で、俺の中で一気にスイッチが入った。

彼女は、俺にかけていた力を一気に増加させたのだ。身体の密着度は高まり、胸の膨らみはこれでもかというくらいに押し寄せられ、彼女の放つ香りが俺の神経算対を麻痺させるかのようだった。

まだ理性が残っていた。いいのか、こんな街中で、Tシャツ一枚で放浪していた女など、明らかに怪しいじゃないか。確かにエンジニアの道を進んでから、女との円はほとんど無くなった。溜まるものも溜まっている、でももっと安全に健全にそれを発散する方法はあるじゃないか。

そんな俺の理性を打ち壊すかのごとく、彼女は俺を抱きしめる力を強め、かすれるような声で言葉を紡いだ。

「おねがい……あったかくして……!」

俺は本能に突き動かされるままに、彼女の唇を、己の唇で塞いでいた。

酒の味の残る俺の唾液と、かすかに甘さを感じる彼女の唾液が混じり合う。

そして彼女をしっかり抱き抱えるような体勢のまま、我が家まで連れて行った。


帰宅した俺は、野獣のように彼女の身体に襲いかかった。

ーなんてことは無かったようだ。少なくとも俺の記憶にはなかった。

どうやら抱き留められて気持ちが緩んだのは、俺の方だった。

仕事で疲れきっていた上に多量の酒が入った俺の身体に、彼女がもたらした興奮がさらに追い打ちを駆けてしまったようだ。

いわば燃えつき状態。家に着いた時点でもう動くことを止めていた。彼女に構う暇もなく、部屋の床にどさりと倒れてしまった。

「あれぇ、もしもーし」彼女の声がかすかに聞こえる中で、俺の意識は完全に落ちた。

気がついたとき、俺は仕事着のままで、我がアパートの一室のど真ん中に横たわっていたのだった。

時計を見ると朝6時。出勤まではまだ時間があるのが救いだった。

身体を起こすと、途端に頭に激痛が走った。二日酔い、当然の結果だ。

彼女の姿は、文字通り跡形もなかった。

彼女は本当にいたのだろうか、酒が見せた幻なのではないかとすら思い始めていた。

唯一残るのは、彼女の身体の感触と、唇の感触だけだ。それも酩酊と性欲が入り交じって生まれた幻想なのかもしれない。

とりあえずシャワーでも浴びよう。名前も分からない、現実か幻か分からない、そんな女の子のことなど、いつまで考えているものでもない。

こうして俺の中で、その奇妙な少女のことは消え去っていったのでした。


結局ただの酔っぱらいの妄言じゃないかって?

ま、その通りだけどさ。

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