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天球のカラビナ  作者: イツロウ
07-覚醒者の選択-
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 ――勝った。

 赤道直下の孤島、その中央部付近にあるコンテナの出口にて

 空から降ってくる人型戦闘機ゲイルを眺めつつ玲奈は勝利を確信していた。

 この場における勝利とは、“クロトを拘束すること”である。

 字面だけ見ると無謀に思えるが、クロトへの対抗策は前々から思索しており、拘束システムの構築に時間はかからなかった。

 正常に動作すれば確実にクロトを停止させられるが、システムの発動には大量のエネルギーと膨大な演算処理が必要になる。

 つまり、ものすごく時間が掛かるのである。クロトやパイロに悟られることなくシステムを起動するのは不可能に近い。

 玲奈の役割はシステム起動まで時間を稼ぐことだった。

 彼らをコンテナ内に引き留め、意味深なことを言ってみたり、柄にもなく大げさなリアクションをしたり、自分に毒を打ったりして本当に大変だった。だが、努力の甲斐あって十分時間を稼ぐことができた。

 トキソの催眠ガスにも少し期待していたが、彼らが相手では仕方がない。

 味方にすれば頼もしいが、敵に回すと厄介極まりない。

(トキソ、ゲイル、上手くやってよね……)

 この日のために何度もシミュレートを重ねてきた。それぞれが決められた役割をきちんと果たせば上手くいく。

 私は役割を全うした。あとは後続に任せるだけだ。

 玲奈は上空にいるゲイルから視線を外すと、再びコンテナ内へ戻っていった。

 

 

 一方、クロトは上空から迫りくる脅威に対して迎撃態勢をとっていた。

 巨大な人型戦闘兵器ゲイルは明確な敵意をこちらに向け、非常識な加速度でもって急降下してくる。

 彼に敵意を向けられるのは初めてではない。何なら攻撃された事もあるし、そのせいで瀕死状態になったこともある。別に恨みはないが、あまりいい印象はない。

 よくよく考えてみれば、この2,000年間で僕にまともにダメージを与えることができたのは彼だけかもしれない。

 あれから玲奈の手によってチューンアップされている可能性もある。

 黒の粒子で動きを止められればいいと思っていたが、破壊してでも確実に鎮圧したほうがいいだろう。油断大敵である。

 クロトは気を引き締め、高密度の黒の粒子を上方に展開してビーチパラソル大の盾を形成する。

 急降下してきたゲイルは巨大なブレードを抜刀、居合の要領で盾めがけて斬撃を放った。

 それは大型重機をダース単位で両断できそうな豪快な斬撃だった。が、黒の粒子の盾に弾かれて軌道を逸らし、クロトの真横の地面に追突した。

 ブレードは地面に深く刺さり、砂の入り混じった土の塊が四方八方に飛び散る。

 同時に発生したのは耳をつんざく破裂音、そして空間が歪んで見えるほどの衝撃波だった。

 生身の人間が受ければ鼓膜どころか内臓破裂は免れない。

 クロトは瞬時に半球状のドームを3つ形成し、後ろに控えている律葉とティラミス、エヴァーハルトとカレン、そしてパイロにそれぞれ被せた。

 ほぼ同時に衝撃波が周囲に広がり、3つのドームに襲い掛かる。

 急場しのぎのシェルターだったがその役割は十分に果たしたようだ。黒の粒子は衝撃を吸収し、時間差で飛んできた土や砂も防いだ。

 しかし、被害はそれだけに収まらない。

 衝撃によって大量の砂塵が宙に舞い、瞬く間に周囲一帯を覆いつくした。

 砂塵は煙幕のごとくクロトの視界を奪い、ゲイルを見失ってしまった。

「……!!」

 敵を捕捉できないこの状況はまずい。

 自分だけなら広範囲攻撃で簡単にゲイルを炙り出せるが、それをしてしまうと確実に味方を巻き込む。

 ゲイルも律葉には危害を加えないようにプログラムされているので下手に動けない。

 ……かといって砂塵が消えるまで待つのは愚策である。

 ゲイルの狙いは僕個人だ。となれば、この場から離れて身を晒したほうがいい。あちらにとっても好都合なはずだ。

 そんなことを思っていた矢先、視界不明瞭にも関わらず反撃を行ったのはパイロだった。

「いきなり何すんだこのガラクタ!!」

 怒声と共に放たれたのは熱線だった。

 熱線は砂埃を蒸発させ、その際に発せられる白光がきれいな直線を描く。

 その細い光の道が向かう先には分厚い金属が……ゲイルの胸部装甲があった。

 正確に一直線に放たれた熱線は装甲を焼き、表面塗装されたコーティング剤をドロドロに融かしていく。

 熱は周囲に伝播して空気を温め、結果として小規模な上昇気流を生む。

 上昇気流は空間に浮遊していた砂埃を巻き込み、図らずも砂の煙幕を消し去った。

 視界が明瞭になり、クロトは改めてゲイルの胸部装甲に注目する。

 熱線はぶれることなく胸部装甲の一点を集中的に熱していた。

 このまま装甲を貫くのかと思いきや、熱線はそれ以上のダメージを与えることができず、ゲイル自身もそれを理解しているのか、回避行動を取らずにいた。

「この程度か」

 ゲイルの合成音声が周囲に響き渡る。

 続けてゲイルは重力制御を駆使しで空間を歪め、熱線の軌道を曲げた。

 熱線は地面に命中し、砂の大半がすさまじい熱量を受けて蒸発し、一部がガラス化していた。

 対照的にゲイルの胸部装甲は少し黒ずんでいるだけでダメージは皆無のようだった。

 やはりゲイルは脅威だ。

 クロトは黒の粒子で上空に足場を作って陣取り、ゲイルに警告する。

「今すぐ武装解除したほうがいい。このままだと君を破壊することになる」

 クロトは足元にジャベリンを数本形成し、穂先を真下へ向ける。

 漆黒の槍はゆっくりと自転しながらクロトの周りを公転していた。

 破壊するのは容易だが、ここで自爆されて怪我人が出るのも困る。できればダメージを与えずに停止させたいというのが本音だ。

 僕だけを狙っているのであれば、この場所から離脱して海上で撃墜すればいい。

 だが、ゲイルの目的がわからない状況で他のメンバーと離れるのはリスクが高い。

 それに加えてトキソも潜んでいる。いつでも対処できるようにメンバーから離れるわけにはいかない。

 警告を受けたゲイルは頭部のアイカメラをクロトに向ける。

「ククロギ、お前の唯一の弱点を教えてやろう」

「弱点?」

 それは唐突なアドバイス宣言だった。

 ゲイルは手にしていた巨大な刀を鞘に納め、話を再開する。

「お前の弱点、それは“慢心”だ。自分こそが最強であるという考え、その勘違いが思考を鈍らせる」

 余計なお世話である。

 クロトは皮肉を込めて言い返す。

「ご丁寧にどうも。でも僕が強いのは事実だよ。少なくとも君よりは、ね」

「そうだなククロギ。私がお前に劣るのは事実だ」

 意外にもゲイルはクロトの反論を素直に受け入れた。

 ゲイルは少し間を置き、再度クロトに問いかける。

「ではどうして、お前よりも戦闘能力に劣る私が攻撃を仕掛けたと思う?」

 ゲイルからの問いに対し、クロトは言葉に詰まってしまう。

 敵対しているから攻撃したと考えれば簡単だが、あまりにも短絡的すぎる。玲奈が意味のない指示をゲイルに与えるとは考えにくい。つまり、このゲイルの奇襲には何らかの意図があるということだ。

 この状況下において玲奈は何をしようとしているのか。

 色々と思考しつつ、クロトはふとゲイルを見る。

 ゲイルはこちらに見せつけるように自らの左肩を指先でコンコンと叩いていた。

 そんなジェスチャーに釣られ、クロトは自らの左肩に視線を向ける。

 クロトの左肩にはコインサイズの小さな機械がくっついていた。

 その機械には発光器が内蔵されており、半透明のボディから赤の光が点滅していた。

(これは……ビーコン?)

 おそらくこれはゲイルによって取り付けられたものだ。

 先ほどの奇襲攻撃はフェイントで、このビーコンを僕の体に付けることがゲイルの目的だったのだろう。

 このビーコンが何のために付けられたのか、クロトはすぐに答えを知ることになる。

 ――ビーコンの色が青に変わる。

 瞬間、クロトは見えない力によって上から押さえつけられた。

 真上からの衝撃に対応できず、クロトは空中に固定していた足場からずり落ちてしまう。

 落下している間、クロトはビーコンを外そうと試みたが、上方からの力によって体をうまくコントロールできず、頭から地面に叩きつけられてしまった。

 想像以上に衝撃は大きく、落下地点を中心に地面が半球状に抉れた。

 ダメージはない。しかし、上方からの力は緩む気配はなく、それどころか乗数的に強くなっている。

 体も重くなってきた。このままでは身動きが取れなくなる。

 クロトはその場から離脱するべく脚に力を込め、クレーターの外側へ跳躍する。

 2km離れた海まで行くつもりで跳んだクロトだったが、今度は前方からの力によって押し返され、跳躍距離は2kmどころか2mにすら満たなかった。

 クロトは再度離脱を試みようとしたが、動き出す前に前後左右上下から非常に強い力で圧迫され、本格的に身動きが取れなくなってしまった。

 周囲の空間まるごと内方向に圧縮されているらしく呼吸もままならない。

 深海には何度も潜ったが、あの時の水圧とは比べ物にならない程の圧力だ

(これは……)

 以前にアンチDEED因子を撃ち込まれた際は体に力が入らなくなったが、今は体に異常はない。……にも関わらず動けない。

 こちらの力を上回る出力で抑え込まれている。そんな力を生み出せる装置はこの世に一つしか存在しない。

(重力制御ユニット……!!)

 ゲイルの動力として組み込まれている重力制御ユニット。

 あれを複数個、同時に使えば今のこの状況も納得できる。

 今のところダメージは無いが、何が起こるのか予測不可能なこの状況下では早急に対応するのが吉だ。

 クロトは黒の粒子で小さな球体を手のひら内で形成し、それを親指の力のみでゲイルに向けて弾き出した。

 いわゆる指弾である。

 威力はジャベリンに劣るが、何かしらダメージを与えれば均衡が崩れて隙が生まれるはずだ。

 そんなクロトの考えもむなしく、高速で弾き出された球体はゲイルに到達する前に……正確に言うならクロトの手から放たれた瞬間ピタリと制止し、その場に固定された。

 この結果に流石のクロトも驚きを禁じ得なかった。

「どう? 全然動けないでしょう?」

 不意に耳に届いたのは玲奈の声。

 声はゲイルの外部スピーカーから発せられていた。どうやら離れた場所からモニタリングしているようだ。

「……」

 クロトは玲奈の問いかけを無視して再度球体の射出準備に入る。しかし、次のセリフで動きを止めることになる。

「ゲイルを破壊しても無駄よ。今あなたを拘束しているのは全く別の装置。ゲイル単機の出力であなたを抑えられるわけがないでしょう」

 こちらの考えなど完全にお見通しらしい。

 クロトが戸惑っている間も玲奈は手の内を明かしていく。

「あなたを完全に捉えるには正確な座標計測と膨大な演算が必要。つまり、“特定の地点”に“長時間”留まってもらう必要があったの」

(そういうことか……)

 先ほどの長ったらしい会話や毒を使った駆け引きなど、あれらは全て僕をコンテナ内に引き留めるための時間稼ぎだったらしい。

 まんまと玲奈にしてやられた。

 しかし、いつまでもこの状態が続くとは思えない。これだけの出力を維持するとなると膨大なエネルギーが必要になる。

 せいぜい10分か15分が限界だ。そんな短い時間で何ができるか、たかが知れている。

 ――DEED因子の力は絶対だ。

 粉々に潰されようが灰になるまで焼かれようが宇宙に捨てられようが、無傷でいられる自信がある。 

 玲奈もDEED因子の規格外の能力のことは重々承知のはずだ。

 一体彼女は何を考えているのか。

 そんなクロトの疑問に応じるように、玲奈はスピーカー越しに告げる。

「ごめんなさい真人、先に謝っておくわ」

 謝罪するくらいなら今すぐ拘束を解いてほしい。

 玲奈は自身の考えを、思いを打ち明ける。

「あなたに恨みはない。むしろ感謝してる。人類史上最高の英雄と呼んでも過言ではないでしょうね。でも、DEEDの根絶というこの一点においては譲れないの」

 彼女のDEEDに対する恨みは強い。いや、普通の人間ならば彼女と同等かそれ以上の恨みや恐怖を抱いていても不思議ではない。

「もしDEEDと共存できたとして、必ず人類側によるDEEDの排斥運動が起きるだろうし、そうなれば数で勝るDEEDが反抗するに決まっている。所詮は相容れないもの同士、大きなトラブルは避けられないわ」

 そのトラブルをできるだけ小さくするべく話し合いの場を設けたのだが……。

 クロトの反論を察するように玲奈は続ける。

「真人の言うように、じっくり時間をかければ最低限の摩擦で共存共栄の道を歩めるでしょう。でも、それには100年単位の時間を要する。……時間が掛かればかかるほど予期せぬトラブルが発生する確率も高くなる。対処を誤れば人類はすぐに滅亡する。DEEDは脅威以外の何物でもないのよ」

 玲奈はDEEDの存在自体が問題だと認識しているようだ。

 一日でも早く、一時間でも早く、できる限り速やかにDEEDをこの世から消し去りたいという思いがひしひしと伝わってくる。

 気持ちはわかる。主張も間違っていない。

 だからこそ対話が必要なのだ。暴力で解決するのは最終手段であるべきだ。

 考えつつ重力制御ユニットの圧力に耐えていると、耳を疑うようなセリフが玲奈から発せられた。

「……でも、それ以上に問題なのは真人、あなたという存在よ」

「!?」

 唐突な存在否定にクロトは驚く。

 驚いている間も玲奈は責め立てる。

「その桁違いの戦力、人情に厚い性格が事態を悪いほうへ、より複雑にしている。今回もあなたの提案がなければこんなことにはならなかった。すべてはあなたのせい、あなたが元凶なのよ」

 旧友とは言え、流石の僕もそこまで言われると悲しくなる。

 責任は感じている。混乱を招いた自覚もある。

 でもそれは人類を思ってのことだ。どうにか理解してくれないだろうか。

 そんなクロトの思いもむなしく、玲奈は冷徹に告げる。

「……話はおしまい。そろそろお別れの時間ね」

 不意に悪寒を覚え、クロトは周囲に目を向ける。

 いつの間にか重厚な金属柱が宙に浮かんでいた。

 視認できるのは5基、距離は200mは離れているだろうか。それぞれ前後左右に加え上空にも配置されていた。

 どうやらこれらのユニットが同期して、自分の位置にピンポイントで重力場を形成しているようだ。下方からも圧力をかけられていることを鑑みると、真下にも同じような装置があるに違いない。

「DEEDの駆除が終わるまであなたを“行動不能”にする。覚悟はいい?」

 口ぶりから察するに、より強い圧力をかけるつもりのようだ。

 1基でも破壊できればこの状況を脱せそうだが、身動きできない上に距離もある。そして何より時間がない。

 ……逃げられないなら守りを固めるまでだ。

 耐えていれば隼やティラミスが助けてくれるはずだ。

 クロトは覚悟を決め、身を引き締める。

「おやすみなさい」

 玲奈が別れを告げると、周囲に急激な変化が起きた。

 6基の重力制御ユニットは砂を強引に集積、結合させて球状のドームを形成していく。

 砂はそれ自体が意志を持っているかのようにうねり、クロトを囲んでいく。

 ドームは3秒と経たずに完成し、内部に閉じ込められたクロトは完全に視界を失った。

 これで終わりかと思いきや、ドーム内でバチバチという炸裂音が鳴り始める。

 それは電力施設や落雷時に耳にする音であり、高圧電流が流れているのが容易に想像できた。

 玲奈は僕を“行動不能”にすると言った。拘束でも監禁でもなく“行動不能”だ。

 その言葉はクロトに防御態勢を取らせるのに十分な理由たり得た。

 電気エネルギーは瞬く間に熱エネルギーへ変換され、砂で固められたドームを黒くて硬質な檻へ変貌させる。

 内部温度も急激に上昇し、コンマ数秒で金属が蒸発する温度に達し、太陽の表面温度を軽く超え、プラズマが発生し始めた。

 ……それでもクロトはまったくダメージを受けていなかった。

 黒の粒子を鎧に変え、熱をシャットアウトしていたからだ。この鎧は衝撃も毒も通さない、絶対防御の鎧である。

 DEEDを殲滅し始めた頃は被弾することが多く常に身につけていた。

 遠距離から一方的に攻撃できるようになってから使う機会は無くなったが、何だかんだで体は覚えていてくれていたようだ。

 咄嗟の防御策としては満点だった。しかし、鎧を装着したという安心感が気の緩みに繋がり、結果として大きな隙を生んでしまう。

 その隙を見逃す玲奈ではなかった。

「今よ、トキソ」

(トキソ……?)

 分厚いドーム越しに微かに聞こえたのは、あらゆる物質を自在に生成できる能力をもつ女性の名だった。

「消えて無くなれ!!」

 トキソは並々ならぬ憎しみをシンプルな言葉に乗せ、重力の中心……クロトが閉じ込められている球体めがけて小指サイズのキューブを投げ込む。

 キューブは黒い球体に接触すると、そのままゆっくりと中に沈み込んでいく。

 壁を通り超えるとキューブは内部に到達し、光熱高温のプラズマに曝される。

 瞬間、キューブから閃光が発せられた。

 青みを帯びた閃光は球体内部を明るく照らし、クロトの体を貫いた。

 見慣れぬ閃光に驚いたクロトだったが、驚きよりも痛みの方が強かった。

「……ッ!!」

 今までに体験したことのない、焼けるような痛み。

 全身の細胞が悲鳴を上げ、ばらばらに引き剥がされる方な感覚……。

 アンチDEED因子弾を受けた時とは違う。あの時は脱力感の方が強かった。今回は単純に痛い。全身が痺れ、意識が飛んでしまいそうだ。

 意識が朦朧とする中、耳に届いたのはトキソの声だった。

「トリチウムだ。核融合反応の際に膨大なエネルギーと中性子線を放出する」

 なるほど、よくわからないが本気でやばいことだけはわかる。

「重力に押し潰され、中性子線を浴びせられ、超高温で燃やされ続ける……。 どうだ? 痛いか? 苦しいか?」

 意識どころか体の形を維持することも難しくなってきた。これが死?

 この痛みから解放されるのなら死んだほうがいいのかもしれない。

「記憶を失っていたとは言え、あの施設を破壊したのは事実だ。私の大事な人、家族、同胞はお前のせいで死んだ。……罪は償ってもらうぞ、人殺し」

 体がつぶれる、考えが沈む、何も見えない。

(律葉……)

 ――クロトの意識は完全に途絶えた。


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