表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天球のカラビナ  作者: イツロウ
05-橋上の悪魔-
58/107

057 釣り


 057


 アルナ海峡に到着してから6日目

 ウツボ型ディードを駆除する準備は順調に進み、鎖や巻取り機はティラミスやモニカ、そして鍛冶職人達の激務のおかげで完成し。ディードの血を原料とした地雷も完成し、今は橋の前の広場にて設置作業が行われていた。

 広場には狩人や鍛冶職人、それに作業を手伝っている地元のボランティアでごった返しており、飲み物や軽食を無料で配るものまで現れ、祭りのような様相を呈していた。

 賑やかな広場の中、クロトは50cm四方の箱型の地雷をモニカに指定された通りの場所に埋める作業に没頭していた。

「準備は順調ですか? クロトさん」

 名を呼ばれ、クロトは顔を上げる。

 そこにはモニカの姿があった。

 モニカは両手にコップを持っており、片方をクロトに差し出す。

 クロトは「どうも」と言いつつコップを受け取り、中身も確認しないで口元で傾けた。

 すぐに冷たい水が喉にまで到達し、乾きを瞬時に癒やしてくれた。

 中身を全て飲み干すとクロトは「ありがとう」と言ってコップをモニカに返し、同時に質問も返す。

「準備は順調だけれど、本当にこの配置でいいのかい?」

 地雷の配置方法はクロトが予想していたよりもシンプルだった。

 3列×30個の地雷を橋に対して垂直に配置する。……たったそれだけだった。

 円状にしたり放射状に配置するかと思っていたのに、ゴールラインのごとく真横に配置されている。

 モニカはこの配置に絶対の自信を持っているのか、自慢気に説明し始める。

「計算ではこの指向性の爆発でウツボの首は吹き飛ぶはずです」

 モニカは片方の手で首を斬る仕草をしてみせる。

「首がちぎれたら頭と胴体が分断されます。頭だけでも動くかもしれませんが、こちらには狩人が60名近くいます。対処も難しくないでしょう」

 頼もしい限りだ。

 ……具体的な作戦はこうだ。

 まず銛をウツボに飲ませる。銛が引っかかったら巻取り機で無理やりウツボをこちら側に引き寄せる。そして、頭が地雷のラインを超えたら爆破、首が吹き飛ぶという寸法である。

「ところで、誰が銛をあのウツボに?」

 クロトはモニカに問いかける。

 狩人から選ばれるのは間違いないだろうが、俊敏性に優れた狩人が適任だろう。

 と、思っていた矢先、背後から答えが帰ってきた。

「銛を担当するのは私です、クロト様」

 モニカの代わりに答えたのはティラミスだった。

 ティラミスは両手にサンドイッチを持っており、片方をモニカに、もう片方をクロトに差し出す。

 クロトは「どうも」と言いつつサンドイッチを受け取る。が、すぐに食べることなくティラミスに質問する。

「ティラミスが銛を? 他に適任者がいそうな気がするんだけれど……」

「確かに、機敏さでは私は他の狩人には劣ります。でも、問題はそこではないんです」

 ティラミスはそう言ったまま巻取り装置へとテクテクと歩いて行く。

 ここで改めてクロトは巻き取り装置の全貌を観察する。

 巻き取り装置は一言で表すと“巨大な筒”だった。

 筒は2つあり、横に並んで歯車で接続されている。

 一方には鎖が巻きつけられており、もう一方の筒には回転させるための棒が付いている。

 もちろん人力だ。だが歯車の回転比率により人力でもあのウツボ型ディードを引っ張れるだけの力を生み出すことが出来るのだ。

 おまけに逆回転しないようにストッパーも付いている。その辺りは金属製なので強度は問題ない。間違いなくウツボを巻き取れる機械だった。

 そんな機械からティラミスは銛を手に取り、こちらに持ってくる。

 銛は当然ながら鎖に接続されており、ティラミスが近づいてくる度に鎖は広場の石畳と擦れてゴリゴリと音を鳴らしていた。

 ティラミスは銛をクロトの前で掲げ、ようやく問題点を告げる。

「この通り、鎖に繋がれているということもあって銛が重いんです。これを持って全速力で走れる人間は私以外いないんです」

「そういうことか……」

 確かに、これは怪力のティラミスでなければ勤まらない仕事だ。

「持ってみますか?」

「いえ、遠慮しておくよ……」

 この立派な銛、全て金属で出来ているとすれば軽く50kgは超える。返しの部分だけでも10kgはありそうだ。鎖も合わせるととんでもない重量になるに違いない。

 ティラミスは銛を見せつけた後、それを返すべく巻き取り装置の方へと戻っていってしまった。

 その背中を見つつ、モニカは呟く。

「この作戦、ティラミスちゃんが要ですね」

「だね……」

 クロトはいざとなれば自分も出るつもりでいた。が、この様子ならあの力を使わずともウツボを駆除できそうだ。

「さて、残りの地雷も埋めてしまおうか」

「お願いします」

 クロトは地雷の設置作業に戻り、モニカも機器の調整のためか、その場を離れて何処かへ行ってしまった。



「――完成っと……」

 地雷を全て埋め終え、クロトは広場の端、ベンチに座って一息ついていた。

 手にはコップが握られ、中には水が入っている。

 クロトはそれを口元で一気に傾ける。

 冷たい水をがぶ飲みするのは気持ちいい。重労働を終えた後ならなおさらのことだ。

 爽快感を感じていたクロトだったが、広場内は先程までと違って緊張が漂っており、ボランティアの人も広場から離れて北の方へ移動していた。

 ピリピリとした空気を感じていると、オールバックの狩人、フェリクスが近付いてきた。

「ようクロト、地雷の設置は終わったのか」

 クロトはコップを脇に置き、フェリクスに応じる。

「終わったよ。あれだけあれば必ず仕留められるよ」

「もちろんだ。そうじゃないと困る」

 フェリクスは広場を見渡し、最後に橋に視線を向ける。

「装置も完成。作戦も完璧。後は実行するだけだな」

「実行って……まさか今から?」

「ああ、住民の避難が終わったらな」

 急な話にクロトは思わずフェリクスに意見する。

「それはちょっと早すぎやしないかい? もう一回装置の点検をしても……」

「あのウツボ、いつまでおとなしくしているか分からねーからな。準備が出来次第作戦開始だ」

「……」

 フェリクスの意思は固いようだ。

 それに狩人たちの士気も高い状態にある気がする。

 今のうちにさっさと駆除してしまうのもいいかもしれない。

 だが、作戦内容についてクロトは納得出来ない部分があった。

「その作戦なんだけれど……僕がここに残ってていいのかい?」

「おう。ウツボの撹乱は俺と狂槍がやる。お前とジュナは広場で待機だ」

「僕らも一応上級狩人だ。なにもしないわけには……」

 フェリクスはクロトの言葉を遮る。

「一応周辺のディードは駆除したが町に降りてくる可能性もある。……クロト、モニカさんだけは何があっても守るんだぞ」

 またモニカである。

 フェリクスのモニカへの片思いっぷりは見ていて恥ずかしくなるほどだ。

「そんなにモニカが心配なら自分が残ればいいのに……」

「馬鹿か。作戦立案者の俺が前に出ないとカッコがつかねーだろうが。いいからお前らは作戦通りに動けばいいんだよ」

「……わかったよ」

「それでいい」

 住民の避難が終わり次第実行となると、あと1時間か2時間か……とにかく正午前後になりそうだ。

 今日は雲一つない快晴。視界もいい。作戦には最適の天候だ。

 クロトは改めて作戦の成功を祈ってフェリクスに告げる。

「フェリクス、くれぐれも気をつけて」

「誰に向かって言ってんだ? 俺は上級狩人だぜ?」

 フェリクスは得意気に笑ってみせると、そのまま狩人がたむろっている場所へ行ってしまった。

「……設置終わったみたいね」

 フェリクスと入れ替わるようにクロトの前に現れたのはリリサだった。

 リリサはクロトの隣に座り、脚を組む。

 視線はクロトに向けられておらず、橋に……橋の向こうのウツボ型ディードに向けられていた。

「囮になるらしいけれど、大丈夫?」

「平気よ。狂槍の二つ名を舐めてもらっちゃ困るわ」

 リリサは長い白髪を掻き上げ、余裕たっぷりに告げる。

「あんたはここでのんびりしながらあの怪物が死ぬところを見てればいいわ」

 発案したのはフェリクスだが、実質的な作戦を考えたのはあのモニカだ。失敗するとは思えないし、成功すると信じて疑わなかった。

「鎖がちぎれないことを祈りながら見てるよ」

「その点は問題ありませんよ」

 唐突に話に割って入ってきたのはモニカだった。

 モニカはティラミスを引き連れており、二人でクロトを挟みこむようにベンチに座る。

 まさに両手に花状態である。

 モニカは腰を落ち着けた後、説明を再開する。

「先端部分は噛み千切られないように特に分厚いものを使っています。銛を腔内に突き刺したが最後、死んでも鎖は引きちぎられません」

 モニカに続いてティラミスも告げる。

「安心してください。接合部分も完璧です。どんなに引っ張られてもちぎれることはありません」

「そうかい……」

 二人がここまで言うのなら大丈夫なのだろう。

 みんなで一生懸命に準備してきたのだ。失敗すると思いたくはなかった。

「おいみんな、そろそろ始まるみたいだぞ」

 遠くから声をかけてきたのはジュナだった。

 広場を見ると狩人たちが整列し始めており、住民の姿は綺麗サッパリ無くなっていた。

 どうやら住民の避難が完了したみたいだ。

 ジュナの声に応じるように、リリサ、モニカ、ティラミスはベンチから立ち上がり広場中央へ進んでいく。

 全員何も喋らない。

 緊張しているのか、それとも集中しているのか。

 どちらにせよ、この状況でペラペラお喋りしているような狩人は余裕のある超一流か、それとも緊張感の分からぬ鈍感ものか、どちらかに違いなかった。

 クロトも遅れながら広場中央に集まり、整列している列の後方につく。

 列の前方、最前列にはフェリクスが立っており、橋を背にしていた。

「準備は全て整った。これからウツボ野郎の駆除作戦を開始する」

 フェリクスは声を張り、続ける。

「一応わかってると思うが最終確認しておく。まず俺と狂槍と鎚使いの女が橋を進み、野郎の口の中に銛をぶち込む。銛が完全に刺さったことを確認したら信号弾を撃つから、それに合わせて巻き取り装置で鎖を巻き取ってくれ。で、最後だが、ウツボ野郎の首が地雷のラインを超えたら起爆だ。これでウツボ野郎の首は吹っ飛び、晴れて奴を駆除できるって寸法だ」

 引っ張って爆発で吹き飛ばす。

 実に明快な作戦だ。

「それじゃ行くぞ!!」

 フェリクスの掛け声の後、鎖が擦れるじゃらじゃらという音がその場に響き渡る。

 その音が鳴り始めてから数秒としないうちに銛を携えたティラミスが現れ、広場の最前線、橋との境目に立った。

 ティラミスは銛を肩に担ぎ、振り返る。

「……では、銛を刺しに行ってきます」

 ティラミスは全員に向けて丁寧に告げると、すぐに橋に向けて走りだした。

 その動きに合わせてフェリクスとリリサも走りだす。

 やがて3人は橋の上を走り始め、その姿はどんどん小さくなっていく。

 広場に残った狩人たちもそれぞれの役割を果たすべく動き出す。

 モニカは早速巻き取り装置の正面に立ち、狩人たちに指示を出していた。

「1班は鎖のガイドを、2班は巻き取り装置の操作をお願いします」

「おう!!」

 やる気は十分のようだ。

 残った狩人は60人ほど。

 この60人が交代しながら人力で鎖を巻いていく。トルクは調節されているとはいえ、数キロもあの巨体を引っ張るとなるとかなりの重労働になるだろう。

(あとは信号弾の合図を待つだけか……)

 果たしてどうなるのだろうか。

 準備は完璧だし作戦も完璧だと理解していたクロトだったが、一抹の不安を拭い切れないでいた。



 ――信号弾が上がったのはティラミス達が出発してから7分後の事だった。

 赤色の信号弾は遠くの空に舞い上がり、星のごとくキラキラと輝く。

 光はすぐに消えてしまったが、小さな破裂音が遅れて聞こえてきた。

 この信号弾を見るやいなや、モニカは狩人たちに指示を出す。

「来ました!! 巻いてください!!」

 モニカの指示を受け、狩人達は筒から飛び出た棒を握りしめ、その場でぐるぐると回転し始める。

 筒が回るとその真下に配置されたギアが回り、複数のギアを経由して巻取り装置本体が回り始める。

 伸びていた鎖が巻き取られ始め、広場にはじゃらじゃらと金属同士が擦れる重い音が響き始める。

 最初は順調に巻き取られていた鎖だったが、10mもしないうちにピンと張り、左右に激しくブレ始めた。

 巻き取り速度も極端に落ちた。

 ……どうやらウツボも抵抗しているみたいだ。

 だが、どんなに抵抗したところで無意味だ。

 相手には踏ん張れる手足もなければ爪も棘もない。

 抵抗できることといえば激しく動くことくらいだ。

「ギアを落とします!!」

 モニカはそう告げると巻取り装置本体の裏側に回りこみ、レバーらしきものを引く。

 すると巻き取り速度は遅くなったものの、鎖が左右にブレることはなくなった。

「おー、うまい具合に動いてんな」

 大鎌を腰の後ろで構えたジュナは関心した様子で巻き取り装置を観察していた。

「まあ、あれだけしっかりと地面に固定すれば大概の物は何でも引っ張れると思うよ」

 クロトはジュナの隣に立ち、同じく装置を見つめる。

 巻取り速度は毎分50mか60mといったところだろうか。

 ウツボが中央に陣取っていたと仮定すると、ウツボがこちらに来るまで1時間はかかる。

(1時間か……)

 1時間は短いようで長い。

 その間に狩人が音を上げることはないだろうが、巻取り装置が1時間後も正常に動いているかどうかが心配だ。

 鎖は伸びきっているし、鎖を巻き取る度にキシキシと嫌な音を立てている。

 途中で壊れたら綱引きみたいなことをやらねばならないのだろうか……

 そんなことを考えていると、先行していた3名のうちリリサ1人が帰ってきた。

 リリサは螺旋の長槍を肩に担いだままクロトの元に駆け寄る。

「どう? 上手くいってる?」

 リリサは特に呼吸も乱れることなく、怪我も負っていないようだった。

 リリサの問いかけに、クロトは問いで応じる。

「他の二人は?」

「銛が抜けないか遠くから監視してる。思った以上にしっかり刺さったから抜ける心配はないと思うけれどね」

 ティラミスは無事のようだ。

 安心したところでクロトは小さく頷き、視線を巻き取り装置に向ける。

「こっちも今のところ順調だよ。でもこの調子だとかなり時間がかかりそうだね。心配なのはあの装置が持つかどうか……」

「やっぱりそうよね……」

 リリサは装置を見、顎に手を当てる。

 その後暫く考えていた様子だったが、唐突に踵を返した。

「戻るわ」

「戻るって……銛は大丈夫なんじゃ?」

「やっぱり監視してるだけじゃ駄目ね。ウツボを挑発してなんとか陸側に誘い込んでみるわ。そうすれば巻き取る手間も省けるでしょ」

「そんな無茶な……」

 あのウツボは手強い相手だ。もし挑発する際に近付き過ぎたら噛み殺される危険もある。

 しかし、リリサは恐怖など微塵も感じていない様子だった。

「無茶でもやるしかないでしょ、装置が壊れちゃ元も子もないんだから。……大丈夫、逃げ足には自信があるの」

 リリサはそう言うと走りだし、あっという間に橋の彼方へ去っていってしまった。

「挑発か……」

 話を聞いていたのか、ジュナは自らの考えを述べる。

「あの巨体が自分で移動するとなるとかなりの速度になる。……地雷の起爆準備、早めに始めておいたほうがいいかもしれないな……」

「だね……」

 地雷の起爆のタイミングは僕に一任されている。

 責任重大だ。早すぎても駄目だし遅すぎてもダメだ。胴と首の付け根部分が通過した瞬間に起爆させねばならない。

「準備を始めるよ」

 クロトはジュナに告げると、橋と陸地の接続点、地雷が埋められている場所に向かうことにした。



 一方橋の上。

 ティラミスとフェリクスはじわじわと陸に向かって引き摺られていくウツボの姿を遠巻きに見ていた。

「予定通りですね」

「ああ。鎖も全然切れる気配がない。まさに完璧な状態だな」

 二人は安全を確保するため、ウツボから100m近く離れた場所にいた。

 ここまで離れるとウツボの攻撃圏外らしく、襲ってくる気配は全く感じられない。

 ウツボは現在、牽引されている状況から抜けだそうと必死に頑張っていた。

 最初は身を捩ったり鎖を噛み切るべく何度も口を開閉していたが、15分経った今は後ろ向きに進むべく身を左右に振っている。

 それでも鎖の引っ張る力のほうが大きいようで、無情にもウツボはじわじわと陸に近付きつつあった。

 フェリクスは呟く。

「ここまでされたら普通は海に逃げ込むと思うんだが……奴はどうしても橋から離れたくないらしいな」

「不思議ですね。というか、大体どうして橋の上に陣取ったりしたんでしょうか」

「さあな。化物の考えることなんざ想像するだけ無駄だ」

 フェリクスは後頭部で手を組み、欠伸をする。

 ティラミスも手持ち無沙汰のようで、頻繁に眼鏡を弄っていた。

 じりじりと近づいてくるウツボ型ディードを眺めつつ、フェリクスは呟く。

「海の中にはあんなのがうじゃうじゃいるんだろうな」

「そうですね」

「カラビナに向かうってことは、あいつらみたいな化物の相手をしなくちゃならないってことだよな」

「そうなりますね」

「船一隻なんて簡単にしずめられちまうぞ……」

「ですね」

 単調な会話が続く。

 フェリクスは最後にティラミスに目を向け、はっきりとした声で問いかけた。

「……それでもお前らはカラビナに行くのか?」

「怖いんですか?」

「怖かねーよ。単純に聞いてるだけだ」

 フェリクスの問いに真剣さを感じたのか、ティラミスも真剣に応じる。

「私は常にクロト様の隣にいます。どんなに危険な場所であっても、逃げることなんて絶対ありえません」

「……マジで言ってのか?」

「私は真面目です。……これから先、あんなウツボ程度じゃ済まない海棲ディードと戦闘することもあるかもしれません。……考え直すなら今のうちですよ」

「……」

 フェリクスはティラミスの言葉に何も言い返すことができなかった。

 二人でそんな会話をしていると、リリサが陸側から戻ってきた。

「よう、戻ったか狂槍」

「どうでしたか、リリサ様」

 二人に問われ、リリサはシンプルに状況を説明する。

「巻き取り装置は順調に動いてる。でも長くは持ちそうにないわ。……だから私達が囮になってあいつを誘導するわよ」

 このリリサの提案にフェリクスは悩ましい表情を浮かべる。

「誘導って……マジかよ……」

 そんなフェリクスとは対照的に、ティラミスは乗り気のようだった。

「わかりました。誘導ですね。……具体的にはどうすれば?」

 ティラミスに聞かれ、リリサはすぐに作戦を立案する。

「そうね、とりあえずウツボに近づけるだけ近づいて様子を探りましょ。追ってくるようなら距離を取りつつ陸側に誘導。追ってこないようならまた別の作戦を考える必要があるわね」

「わかりました。とりあえず接近してみます」

 ティラミスはリリサの話を聞くやいなやその場を離れ、ウツボ目掛けて駆けていく。

「おいおい、無鉄砲が過ぎるぞ」

 一人で行かせるわけにもいかず、フェリクスはティラミスの後を追う。

「最初からこうすればよかったのよ……」

 リリサも槍を構え直し、二人の後に続くことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ