033 過剰戦力
033
何だかんだで上級狩人の資格を取得したクロトは、その足でカミラ教団に向かっていた。
(リリサ、何かいい情報は手に入れられたのかな……)
カミラ教団はこの世界の先端を行く技術が開発されている場所であり、情報がたくさん集まる場所だ。そんな場所で2週間近く情報収集をしたのだ。
リリサの父やカラビナについての情報も手に入れられたに違いない。
クロトは猟友会本部とカミラ教団とを結ぶ一本道を歩いていた。
この道は教団か猟友会の関係者しか通らないこともあってか、人通りは少ない。ただ、石畳の道の両側には花が植えられており、散歩するには最適な道なように思えた。
等間隔にベンチも設けられており、そこに座って論議している研究者の集団や、談話している狩人の姿もあった。
そんな中、クロトは見知ったシルエットを見つけた。
ベンチに座り分厚い本を黙々と読む眼鏡の少女。
紺色のショートカットに黒い目、その中に光るのはアメジストを連想させる青紫の瞳。
浅黒い肌は白のストライプ柄のショートワンピースに包まれ、少し大きめのショートブーツを履いた足は交互にブラブラと揺れている。
ベンチには10冊近い本が積まれ、そのどれもがかなり分厚かった。
幼い外見にも関わらずこんなにも熱心な読書家をクロトは一人しか知らなかった。
「ティラミス、久しぶり」
クロトはティラミスに声をかける。
その途端、ティラミスは本から顔を上げてクロトに視線を向けた。
始めはぽかんとした表情だったが、クロトだと判断するやいなやティラミスは満面の笑みを浮かべた。
「クロト様!!」
ティラミスは本を閉じると脇に置き、ベンチを離れて駆け寄ってきた。
「上級狩人の試験、どうだったんですか? 合格したんですか?」
「うん、合格したよ」
「お、おめでとうございます!!」
興奮しているのか、嬉しいのか、お尻のあたりで尻尾がゴソゴソと激しく動いていた。
その仕草は忠犬そのものだった。
「ありがとう」
無意識のうちにティラミスの頭を撫でつつ、クロトは周囲に目を向ける。
ティラミスは一応はヒトガタだ。ひとりきりで放置しているとは思えない。……が、付近にリリサやモニカの気配はなかった。
「二人はどこに? 試験に合格したって報告したいんだけれど……」
クロトの問いに、ティラミスは猟友会本部の方向を指差す。
「リリサ様は猟友会の本部にいます」
「本部にいたのか……でも、なんでまた?」
「詳しくは教えてもらえなかったのですが、腕の立つ狩人を探しているようです」
カミラ教団で情報収集をしていると思っていたのだが……一体何があったのだろうか。
リリサの情報を伝えた後、ティラミスは逆方向、カミラ教団の建物を指差す。
「モニカさんは偉い人に呼びだされて、そのまま帰ってきません。室内にいても暇なので、こうやって優雅に読書を楽しんでいたというわけです」
「なるほど……」
こうやって堂々と屋外で読書をしているとなると、ティラミスは自分がヒトガタだとバレる可能性が低いと考えているようだ。
実際、目が黒い点以外は普通の少女だ。
余程疑い深い狩人でなければ彼女がヒトガタだと思う者はいないだろう。
ティラミスは甘んじてクロトの頭撫でを受け入れつつ、クロトに告げる。
「でも、まさかこんな場所でクロト様に会えるとは思ってもいませんでした。まだお二人共時間が掛かるでしょうし、その間に上級狩人試験のお話でも……」
「いや、とりあえず本部に戻ってリリサと合流するよ」
とにかく今はリリサに上級狩人試験に合格したことを知らせるのが先決だ。
せっかく苦労して資格を得たのだ。少しくらい自慢したい気持ちはある。
クロトはティラミスの頭から手を放し、本部へ戻るべく踵を返す。
すると、ティラミスはクロトの腕にしがみついてきた。
「お供します、クロト様」
そう言ってティラミスはクロトの手を握り、兄妹の如く隣を歩き出す。
「いい加減“様”付けはやめてほしいなあ……」
できるならば狩人の巣窟である猟友会本部には連れて行きたくないが、まあ、バレる心配はないだろう。
クロトは気楽に考え、来た道を戻ることにした。
猟友会本部1階
長い白髪に螺旋の長槍を持つリリサを見つけるのは難しいことではなかった。
「リリサ」
クロトは壁に備え付けられた椅子に腰掛けていたリリサに声をかける。
リリサは物思いに耽っていたのか、少し遅れて顔をこちらに向けた。
「クロト……」
リリサはぼんやりとした表情を浮かべていたが、次第に力が戻ってきて、次の瞬間にははっきりとした口調でクロトに問いかけていた。
「あんた、試験は合格したんでしょうね?」
「なんとか合格できたよ」
「あんなのは合格できて当たり前よ」
「当たり前って……それなりに苦労したんだから、もうちょっと労ってくれてもいいじゃないか……」
「何? 褒めて欲しいの? 奴隷の分際で?」
「そこまでは言ってないけどさあ……」
「あの、クロト様」
不満を言うクロトに対し、隣からティラミスが耳打ちする。
「“合格できて当たり前”という言葉、捉え方によっては褒められてると考えてもよろしいかと……」
「ティラミスはポジティブだね……」
まあ、リリサの反応は予想の範囲内だ。「合格おめでとう」「よくやったわ」「流石はクロ」……なんて言われても逆に気持ち悪い。
クロトは気を取り直してリリサに告げる。
「それはそうと……狩人を探してるんだって?」
「そうなのよ」
リリサは椅子から立ち上がり、クロトの隣に立つ。
「カミラ教団の人が言うには父はカラビナにいる可能性が高くて、カラビナに行くには船が必要で、おまけにそれなりの戦力が必要だって聞いたの。だからまずは人員を確保しようと思ってね」
リリサの話しぶりから察するに、かなり有益な情報が得られたみたいだ。
情報は後で共有するとして……長旅に仲間が必要なのは容易に納得できた。
「確かに、リリサと僕とティラミスじゃ頭数が足りないからね。……でも、その様子だとまだ見つけられてないみたいだね」
「そうなのよ……最低でもあと4人は確保しておきたいのだけれど」
「4人なんて言わず10人でも20人でも雇えばいいじゃないか」
クロトの単純な疑問に、リリサは肩をすくめる。
「目的がディード狩りならそうでしょうね。でも私達の目的はカラビナに“たどり着く”こと。目立たず、かつ戦力を増強するには7名位が丁度いいのよ」
「なるほど……」
少数精鋭というわけだ。
自分が精鋭メンバーの一人に数えられているのは嬉しいことだが、なんだか少し気恥ずかしい気もする。
壁際の椅子の前で話し込んでいると、カウンターから声が飛んできた。
「リリサ、カラビナに向かうために腕の立つ狩人を探しているんだって?」
クロト、リリサ、ティラミスはカウンターに目を向ける。
そこには見知った老人の姿があった。
リリサはその名を告げる。
「バスケス先生、どうしてそのことを?」
カウンターにもたれ掛かっていたのはクロトを上級狩人試験に途中参加させてくれた狩人、バスケス老人その人だった。
バスケスはひょいとカウンターを乗り越え、髭を撫でながら近づいてくる。
「エヴァーハルトから話を聞いてな。かわいい教え子のために腕の立つ狩人のことを教えてやろうと思ったわけだ」
「先生、あの主任さんと知り合いなの!?」
「驚くほどのことでもないだろうに。長年生きておれば嫌でも知り合いは増えるものだ」
話がよく見えない。が、彼が手練の狩人を紹介してくれるという旨だけは理解できた。
バスケス老人は早速一人の狩人の名前を口にする。
「それで、狩人の話だが……『ダンシオ・アルキメル』がいんじゃないか? あいつは育成校入学からたったの5年で上級狩人試験に合格した優秀な狩人じゃ。今も教団からの依頼を受けて高難易度の任務を遂行中だ。もし雇えられたなら必ず役に立つだろう」
「アルキメル……バスケス先生が薦めるにしてはあまり聞かない名前ね」
「そうだな。……だが、実力は本物だ。これは間違いない」
恩師からの紹介とあってか、リリサは迷うことなく即決した。
「いいわ、まずはそいつをあたってみましょ。……で、どこにいるの?」
「今はラグサラムで仕事中だ。エンベルに向かうといい」
聞き覚えのある単語を耳にし、クロトは思わず言葉を繰り返す。
「ラグサラム……」
その言葉にリリサは素早く応じる。
「エンベルはセントレアの西、砂漠のど真ん中にある街よ。で、ラグサラムはそこから北にある岩石砂漠地帯。大昔から毒の霧に覆われていて全く未知の領域になっているらしいけれど、本格的に調査をすすめるつもりなのかもね」
「ラグサラム……あ!!」
クロトはこの地名をどこで聞いたか思い出した。
クロトの声に反応し、リリサはクロトに顔を向ける。
「何? もしかして何か思い出したの?」
「いや、ミソラの病気を治した薬、ラグサラムに生息するディードの血を原料にしてるって言ってたような……」
クロトにとってこのラグサラムという言葉は思い出深い言葉だった。
もしあの時薬がなければミソラは死んでいたし、薬のために身売りしなければリリサと出会うこともなかった。
が、リリサにとってクロトの発言は特に驚く内容ではなく、逆に説明し始める。
「そうよ、ラグサラムのディードは血にしろ内臓にしろ薬の原料になるから高く売れるの。でも、さっきも言ったように常に毒霧が掛かっていて常人には近付けない。一応ガスマスクもあるのだけれど長居は出来無いわ。そんなこともあって狩人からは嫌煙されがちな場所だけれど、金儲けに適した場所であることは間違いないわ。アルキメルって狩人、余程お金が好きな狩人みたいね」
リリサは早口で説明した後、バスケス老人に再度問いかける。
「それで、他にめぼしい狩人はいないかしら?」
バスケス老人は首を横に振る。
「まずはダンシオを仲間に迎え入れることだ。ダンシオがいるとなれば他の手練を迎え入れるにしても交渉がしやすいだろう」
「……わかったわ」
リリサは食い下がることなく恩師の指示に従い、早速出口に向けて歩き出す。
「とりあえずエンベルに向かいましょ。バスケス先生、情報ありがと」
「なんの。相談事があるならまた来るといい」
バスケス老人は軽く手を振るとカウンターを飛び越え、姿を消してしまった。
出口に向かって歩くリリサをクロトとティラミスは追いかける。
「待ってリリサ」
「何? 文句でもあるわけ?」
クロトは首を横に振る。
「エンベルに向かうのは賛成だよ。でも、その前に少し仕事をしたほうが……」
「どうして……あぁ……」
リリサは自ら重大な問題に気づいたようで、足を止めて額に手を当てた。
その問題をクロトは告げる。
「お金……旅費もそうだけれど、ダンシオって人を雇うとなるともっとお金が必要になると思う」
「そうよね……」
……お金は大事だ。
先程も船がどうとか言っていたし、ダンシオ以外の狩人も雇うとなるとかなりの額が必要になる。
仕事をこなしていけば金は貯まるだろうが、かなりの時間が掛かるのは事実だった。
そんな時、悩むリリサに声をかける人物が現れた。
「……その心配はいりません」
くぐもった声と共に目の前に出現したのはモニカだった。
意外な人物の出現に、リリサはおもわず問いかける。
「どうしたの、モニカ?」
モニカは視線を下に向け、ゆっくりと答える。
「実は、主任から命令が下りまして……カラビナ探索を任されたんです」
「へー、それで?」
「つきましては、今後も同行させていただきたいのですが……」
「ほかを当たって頂戴」
即答だった。
あまりにも素っ気なさ過ぎる対応に、クロトはすぐにフォローに入る。
「待ってリリサ、探索を任されたってことは、それなりの経費もあるってことだよね?」
「はい。かなりの額を受け取りました。カラビナに連れて行ってくれると約束してくれるのなら全てをお預けしてもいいですよ」
これはかなり魅力的な提案だった。
棚から牡丹餅、瓢箪から駒である。
カミラ教団の資金は潤沢だ。もし教団から支援を受けられるとなれば今後お金に困ることはほぼ無くなる。
かなりの好条件だ。
だが、リリサは頑として首を縦に振らなかった。
「……駄目、やっぱり駄目。あんたが狩人ならまだしも、単なる研究員でしょ? 一般人を連れて歩くほど楽な旅じゃないの」
リリサのごもっともな発言に、モニカはすぐに反論した。
「その点なら問題ありません。兵器開発部から次世代型の武器を預けられたので。……自分の身は自分で守れます」
「次世代型……見せてもらってもいい?」
武器のことが気になり、クロトはモニカに武器を見せるようにせがむ。
「いいですよ……これです」
モニカは背負っていた縦長いバッグを床に置き、中身を取り出す。
中から出てきたのは長い筒を中心に備えた、金属で構成された武器。……どこからどうみてもライフル銃だった。
クロトは思わず声を出してしまう。
「銃じゃないか……」
「“じゅう”……?」
「いや、何でもない……」
クロトはモニカの言葉を煙に巻き、ライフル銃を詳しく観察する。
これはただのライフル銃ではない。銃口の大きさから見ても大口径の弾を撃ち出す銃器……対物ライフルだった。
見たこともないデザインの銃だが、クロトが知っている物よりも未来的なデザインをしており、銃身部分にはラジエータらしきパーツが等間隔に設置され、マウント部分には光学スコープらしきものもガッチリと固定されていた。
ティラミスとリリサはこれが銃であると理解できないらしい。物珍しげに観察していた。
モニカは銃身を撫でながら武器について説明し始める。
「これは、2年ほど前に発掘された文献を解読し、それを元に製作。つい先日完成したばかりの試作品です」
「これって……どう使うの? 槍でも鈍器でもなさそうだし……」
リリサの疑問にモニカは丁寧に応じる。
「これは、筒の中で爆発を起こし、その勢いで金属製の小さな塊を撃ち出す装置です。……この筒に刻まれた螺旋がミソです。これで塊に回転が加わり、まっすぐ飛翔することが出来るんです。しかも塊の形状も空気抵抗を少なくするために円錐状になってます」
「飛ばすってことは……弓矢みたいなもんか」
「そう考えてもらっていいです」
これでリリサは納得した様子だったが、クロトは納得できないでいた。
銃は自分の世界では単純な部類の武器にはいるが、この世界においては複雑極まりない武器だ。それを簡単に造れるとは思えなかった。
また、弾丸についても疑問があった。
炸薬を作ることはできるかもしれないが、この世界の工業技術で薬莢や雷管を作れるとは思えない。
クロトは弾倉らしき場所を指さし、指摘する。
「そこに弾が入ってるみたいだけれど……見せてもらってもいいかい?」
「どうぞ」
モニカは弾倉を外しクロトに投げ渡す。
クロトは早速中身を取り出し、観察する。が、それはクロトの知っている弾丸とは似ても似つかいない物体だった。
(これは……!?)
手のひらに乗っていたのは赤い半透明状の直方体だった。それなりの重さがあり、硬さもあった。
そして、半透明状の物体の中央には金属の弾が埋め込まれていた。
「この弾を覆っている……赤い半透明の物体は?」
モニカはクロトの手からそれを取り、指先でコンコンと叩く。
「これは濃縮して固体化させた動物型ディードの血です。こちらは強い衝撃を与えても爆発しないので安全です。代わりに内部には衝撃を与えると爆発する血がごく少量組み込まれています。これを細い棒で突けば爆発し、誘爆して大きな爆発を起こす仕組みになってます」
モニカの言うとおり、直方体のおしりの部分には小さな穴が空いていた。
……いわゆるケースレス弾というものだろうか。火薬や雷管の代わりにディードの血を使っているようだ。
文献もなしにこれを作り上げたとなると、カミラ教団の研究員は本当に頭のいい連中の集まりのようだ。
「なるほど、で、威力は?」
「小型から中型のディードの骨を貫通できる程度の威力はあります。今後改良も重ねていけばもっと威力を上げることもできるかと」
モニカの話を聞き、クロトはこの武器がかなり強力な武器であることを悟った。
矢よりも速く、そして威力も高い。遠距離から一方的に攻撃できるのだから便利なことこの上ない。
この武器を持つモニカを仲間に加えない手はなかった。
「早速集まったね、仲間」
クロトの言葉にリリサは頑なに首を横に振る。
「駄目よ駄目。いくら強力な武器を持ってても素人には変わりないわ。足手まといになるのが関の山よ」
「……なら僕が彼女を守るよ」
クロトは覚悟を決め、さらに続ける。
「教団からの資金援助は魅力的だし、彼女はカミラ教団の第一級考古学者だ。武器を抜きにしても彼女の知識はかなり役に立つと思うよ」
クロトの覚悟が伝わったのか、リリサはとうとう諦めたように首を縦に振った。
「……わかったわよ」
「じゃあ……」
「ええ、同行してもいいわよ」
リリサから許しが出、クロトとモニカは安堵の溜息をつく。
「よかった……」
「これからもよろしくお願いします」
これでお金の問題はほぼクリア出来たに等しい。後は人員集めを進めていくだけだ。
リリサは再び歩き出し、猟友会本部の建物から外に出る。
クロト、ティラミス、モニカの3名もリリサの後に続いて外に出た。
出口のすぐそばはちょっとした広場になっており、クロトは早速今後のことについて話し始める。
「それじゃ、ダンシオって人に会うためにエンベルに向かうわけだね」
「ええ、色々と旅支度をしないとね」
「セントレアならなんでも揃うから旅支度には苦労しないと思いますよ」
次の目的地について語る3人に対し、ティラミスはクロトにあることについて問いかけた。
「それよりクロト様、上級狩人試験はどうでしたか? 大変でしたか?」
クロトはハードな試験のことを思い出し、ため息混じりに応じる。
「大変だったよ。特に最終試験、サイ型と象型と麒麟型のディードをまとめて倒さなくちゃならなくて……あれはもう死ぬかと思ったよ」
「あら、随分とヌルくなったのね」
リリサは会話に混じったかと思うとニヤリと笑みを浮かべる。
「最近ずっと地下にいたから……出発前に運動がてら狩りでもしようかしら」
「私も、クロト様がどんなディードと戦ったのか気になります。……お供しますリリサ様」
「でしたら私も、早速武器の性能を試してみることにします」
女性陣3人はあっという間に狩りに行くことを決め、早速町の外に向かって歩き始める。
「ちょっとみんな、そんな簡単に……」
クロトは彼女たちを止めるべく後ろから声をかける。が、誰ひとりとして足を止めるものはいなかった。
逆にリリサは意気込みを口にする。
「大丈夫大丈夫。ここらあたりのディード相手なら私とティラミスは楽勝で狩れるし、モニカもクロが守ってあげれば問題ないでしょ」
残り二人もリリサに同意見のようで、全く危険を感じている様子はなかった。
「後悔しても知らないよ……」
クロトは愚痴りつつも仕方なく彼女たちの後を追いかけることにした。
――結果から言うと、クロトの心配は全くの杞憂に終わった。
リリサは平原に出ると同時にライオン型ディードの群れに飛び込み、螺旋の長槍であっという間に5匹ものディードを殺してしまった。
ティラミスはサイ型ディードに襲われた。が、重量感たっぷりの高速の突進をハンマーであっさりと打ち返し、角どころか頭まで砕いてしまった。
その後も麒麟型ディードと戦闘したが、あれだけ苦労させられた頭突きも野球のバッターの如くハンマーを振りぬき、いとも容易く頭部を破壊してしまった。
全くもって末恐ろしい人達だ。
モニカはディードに近付きはしなかったが、高速で走るチーター型ディードを例の銃で撃ち抜き、3発ほどで仕留めてしまった。
これだけでコツを掴んだのか、モニカは他にも象型ディードやハイエナ型のディードも狙い撃ちにし、殆どをヘッドショットで殺していく。
3名が自由気ままに狩りをする様子を目の当たりにし、クロトは何も言えなかった。
「……」
こちらが4人がかりで倒したディードたちを、彼女たちは一人だけで、そして何匹も殺していく……。
もしかして、この中で一番頼りにならないのは自分なのではなかろうか。
そんな事を考えつつ立ち尽くしていると、リリサが戻ってきた。
「ふいー、やっぱり腕が鈍っていたみたい。良いリハビリになったわ」
肩を回すリリサに続き、ティラミスもハンマーを引き摺りながら帰ってくる。
「見てくれましたかクロト様、我ながら見事なスイングだったと思うのですが……どうでしたか?」
ティラミスも戻ってくるとモニカは伏せ状態から立ち上がり、早速ライフル銃を弄り始める。
「ちょっと照準器の造りが雑ですね……出発前にもう一度工房で調整することにしましょうか」
それぞれクロトの元に集まると、リリサはクロトに命令する。
「それじゃ、先に戻ってるからディードの死骸の処理、任せたわよ」
リリサは狩りの結果に満足したようで、勝手に門の中へ戻っていく。
モニカは何も言わず、銃を弄りながらリリサの後を付いて行く。
二人が去っていく中、ティラミスだけがその場に残ってくれてた。
「さ、クロト様、早く猟友会に運んでお金に変えてもらいましょう?」
「ああ、そうだね……」
その後、クロトはティラミスと共に後片付けをすることとなった。




