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塩鮭の戦士  作者: 藤本角
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【乱闘】


 西多魔と北多魔の学園牧たちが一同に介しているのは壮観だった。


 牧だけで何人いるんだろう。鉢王子での戦いより多いのは間違いない。それぞれがどんな能力を有しているのかもわからない。このまま地上に降り立つと、今度は鉢王子の時以上の血みどろの戦いがはじまるのはほぼ間違いなさそうだった。どう考えても修羅場は避けられそうにない。つまらない嫉妬など感じているひまなどないのだった。


 どこからか山鳩の鳴き声が聞こえてくる。のどかだ。小鳥も平和そうにさえずっている。愚かな人間たちを皮肉るように。地上はだんだん近づいてくる。よくも悪くも惨劇の時は近い。


 しかし彼らは、ツムリたちが校庭のまん中に無事に着地するまでまったく手を出してこようとしなかった。それどころか逆に、着地しやすいようにスペースを開けさえした。それがかえって不気味な感じだったが、相手側にしてみればそれだけ警戒しているということなのかもしれない。アザミがいったようにツムリたちたった七人に対して何百人もの人員を配置させたということは、そのぶんだけこちらの実力を認めているということだからだ。


 校庭に着いた一同は立体漢字から降りると、周囲を見回しながらゆっくりと互いの背中をくっつけ合うようにし、かたまりながら三百六十度視界がきくように身構えた。彼らの着地点はまさに敵地の中心部に当たる。不良軍団にズラリと取り囲まれている。うしろに子分どもを従えたそれぞれの学園牧たちが腕組みをしながらリーダーとしての貫禄を誇示するかのように胸を張っている。


 しばし、無言のにらみ合いが続いた。


 やがて中のひとり、東久留芽ヘリア学院のオケハザマシロジローがズイと前に出てきた。


「ギンガ様の命令によって、おまえらを排除し、スズシロスズナを連れて行く。覚悟しろ」


「待って」セリもまた一歩前に出ると、対峙する集団に向かって問いかけた。「ここにギンガはいるの?」


 無反応。


「マリアは? ここの学園牧、マリマリアはいるかしら」


 無反応。


「やっぱりいないのね……」首を振り振り、セリはほんの少しのあいだ間をあけるようにうつむいた。


 その顔をキッと上げると、まるで演説をぶつように周囲を取り囲む軍団に向けて話し出した。


「あなたたち、何でもギンガのいいなりになって、それで満足なの? 平気なの? 不良としての矜持はどこに行ったの? それでいいの? せっかく学園牧がここにこうして一同に介したのだから、この際みんなで協力してそろそろギンガの独裁を終わりにしない? 悪い提案じゃないと思うけど。ここにいるみんな、ギンガたったひとりの支配下に置かれているのよ。それであなたたち悔しくないの? そんなにギンガがこわいの? 相手はひとりなのよ。それでもいうことを聞くの? どうしてそんなに素直なの? それともすっかり飼い慣らされてしまったのかしら。忠実な犬なの?」しかしセリの挑発は逆効果になった。目の焦点が合わない一部の不良どもがセリの言葉に激昂し、


「うるせぇっ! 殺す!」


 大声で叫びながらこちらに向かってダッシュしてきたのだ。するとそれにつられて群衆心理が作用したのか、堰を切って不良軍団がツムリたち向かって一気になだれ込んできた。


「ぐおーっ!」

「どあーっ!」

「でやーっ!」


 とうとう戦闘がはじまった。


 とっさにコテマリアザミとチヂワレヒロシが身構える。アザミは右手を上げ人差し指をくるくる回すとミニ竜巻を発生させ、突進してくる敵連中をうしろに吹き飛ばした。ヒロシは向かってくる敵どもに次々に漢字砲をドスドス命中させ、バタバタとおもしろいように倒していった。攻撃をかわしたほかの連中がひるまずドッと襲いかかってくる。ミタラシオサムがシュルシュルとノドチンコを伸ばす。熊が鮭を振り回し軍団の中に勢いよく飛び込んでいく。ノドチンコムチと怪力で次々に敵どもをなぎ倒していく。


 校舎の屋上にいた連中も地上に飛び降りてくると、スズナめがけて飛びかかってきた。彼女の体にちょっとでも触れさせまいとガードしているセリが光速の切れ味で拳や肘、踵や膝を相手の肉や骨に叩き込んでいく。ある者には腕を抱えて中空高く投げ飛ばし、ある者には足を引っかけ全身を地面に打ちつけた。


 にもかかわらず敵どもはどうしようもないまでに際限なく屋上から飛び降りてくる。三百六十度の周囲からも他メンバーの攻撃をかわしたやつらがギラギラした目を邪悪に光らせながら襲いかかってくる。無限に増殖するウィルスのようにもはやとりつくしまもない。


 セリと同じくスズナをガードしているツムリもいやおうなく乱闘に巻き込まれ、襲いくる敵をかわし、投げ飛ばし、時には骨折や流血をともなうダメージを心ならずも与えてしまわざるをえなかった。

 苦悶に顔を歪めて倒れゆく敵どもに対し、ツムリは心の中で手を合わせた。


(ごめんなさい、しかたないんだ)


 ふと見るとオサムやヒロシ、熊は嬉々としてスポーツとしての暴力をたのしんでいるようにツムリの目に映った。筋肉は健康的に躍動し、その表情のなんといきいきしていることか。明らかに倒した敵の数を競っている。

 どちらかといえば普段は無表情に近いコテマリアザミも、自分の操るミニ竜巻が敵どもを水しぶきのようにおもしろいくらい蹴散らしていくのを見ながらニヤリと笑みを浮かべている。


 しかしその時、突然のハレーションがコテマリアザミの目を射た。


「あっ! 目が! と思っていてぇ!」




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