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塩鮭の戦士  作者: 藤本角
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【猛威】

 今、自分に併走しているミタラシオサムだってそうじゃないか。なぜだか彼は協力してくれるっていってる。でもいったいどこまで何を協力してくれるっていうんだろう。


「立皮フィーシーズ学園のコテマリアザミは竜巻を起こせる能力があるのんじゃコラ」オサムはいった。「竜巻が起こった場所を目指したらええのんじゃコラ」


 ノドチンコの次は竜巻か。そいつはいったい何をお尻の割れ目に挟んでいるんだろう。


 気がつくと、ふたりは弧岩駅前の商店街を走っている。さっきまで星の見えていた漆黒の空はとっくに鉛色のそれに変わっている。


「ほら見ろコラ。あんのじょうじゃコラ」


 オサムが指をさした遠くの方角、商店街を抜けた駅前ターミナルと高架の向こう側で、瓦礫や人や車、その他さまざまなものが音もなくくるくる回転し舞いながら、夜空に上昇していく光景が目に入ってきた。


「あれは!」


 竜巻だ。


 北口のイトーコーカドーの上にあるセブン安藤アイホールディングスの看板あたりまで近づいてきている。


 無音だと思えたのはほんの一瞬だけで、真空のような冷えた静寂ののち、次の瞬間にはバリバリバリというものすごい轟音が耳をつんざいた。

 いきなり夜の街に発生した巨大な竜巻が建物を粉々に巻き上げながら踊り狂っているのだ。


「ああ、ひどい」


 竜巻は駅舎を破壊して弧岩駅南口のこっちにまっすぐ向かってきている。まるで似た者同士で引き寄せあうかのように。


「おいおいおいコラ、こっちに来んなコラ!」


 オサムが思わず怒鳴る。ツムリたちのほうへ向かってくる竜巻から逃げるように、ツムリとオサムは踵を返して商店街を今度は逆走した。


 ものすごい竜巻の唸りがすぐ背後で渦巻いている。それはまるで獰猛に猛り狂う怪物に思えた。怪物が今、人や車、あげくの果ては建物までをも空に舞い上げているのだった。


 竜巻の渦の中には、巻き上げられたさまざまなものが回転していた。瓦礫であったり、人であったり、車であったり、一部のものは竜巻のてっぺんから勢いあまって飛び出すと、遠くの方に落下していった。


 空は今やまがまがしいまでに赤黒く染まっている。ついさっきまで静かで平和だった街のたたずまいが、ギンガがスズナに興味を抱いたおかげでとんでもないことになってしまった。

 学園抗争が峻烈さを極めていた三多魔エリアはずっとこんな感じの戦場だったんだろうか。


 そういえば以前、ギンガがハーレムを作るために各地の女生徒たちを誘拐しはじめるに及んで、武装した警察隊が乗り出したっていうニュースをテレビで見たことがあった。しかし警察の湖底探索チームがいくら捜索しても、第二多魔湖の底には何もなかった。奥多魔ダイアリア学園が生徒たちとともに忽然と姿を消していたのだ。ああ、世間を大騒ぎさせたこんな大きな事件をまるで他人事みたいに聞いていた平和な時代がなつかしい、ツムリはそれまでのノンキな日々を哀しみとともに回想した。とうとう東恐都の東のはしっこにある僕らの町も学園抗争に巻き込まれてしまう時がやってきたんだなあ。


「クソ、アザミのやつめコラ」


 走りながらオサムが悪態をつく。

 いつのまにかたくさんの人々が商店街を一緒になって逃げまどっていた。まわりは悲鳴と怒号に満ち、一気にパニック状態になっていた。


(いくら塩鮭を挟んでパワーを手に入れたとはいっても、さすがにこれじゃかないそうにないな)ツムリは思う。(体ひとつで竜巻に向かっていっても簡単に巻き上げられてしまうだけだろうしなあ。かといってこのまま竜巻から逃げ切ることもどうやらできそうにないぞ。ここまで来たらもう巻き込まれるしかないのかなあ)


 ガシャーンと激しい音がして、風に飛ばされていた一台の車がツムリの近くに落下した。それを合図に、次々にツムリたちの周辺におびただしい車や瓦礫が降り注ぎはじめた。人間もバラバラ降ってきた。


 ツムリの真上に折れた電柱が迫ってきていた。


 間一髪、ツムリは地面を転がるようにしてそれをかわした。


 ものすごい音がして電柱は地面に激突する。


 ふとうしろを見ると、竜巻はもうそこに迫っていた。


「あっ、あれは!」


 その時ツムリははっきりと見た。竜巻の中にナズナセリとスズシロスズナがすでに巻き込まれてしまっているところを。


(助けられなかったんだ!)


 ふたりは引き離されており、各自竜巻の中でくるくる回りながらこちら側に姿を現したり消えたりを繰り返している。


 いや、それだけじゃない、いつのまにかとっくにミタラシオサムまでが竜巻の中で回転しているではないか。


 もちろん三人以外にも、おびただしい数の絵戸川区民が犠牲になっている。渦の中で踊り狂っているかに見える。


 無事なのはツムリだけのようだが、彼らの仲間入りするのはもはや時間の問題に思われた。


 竜巻の中にかいま見えるナズナセリは比較的冷静さを装っていて、あえて竜巻の流れに身をまかせるようにしながら、状況の打開を練っているかのようにツムリの目に映る。しかしそれでもいかにも無力な感じに見えるのはいかんともしがたい。セリでさえあれなのだから、塩鮭の効果など望むべくもなかった。


 ふと竜巻の中のスズシロスズナと目が合った。


「スズナちゃん!」


 まるで離ればなれになった恋人の名を呼ぶかのようにツムリは叫んだ。スズナはその目でツムリに「助けて」と訴えていた。


(よし待ってろよ今行くぞスズナちゃん!)


 ここはもう男として竜巻であろうとなんであろうと突っ込んでいかざるをえないとツムリは決意した。そうと決まれば躊躇してるヒマはない。ツムリは天と地をつなぐ猛烈な風の渦に向かってがむしゃらに突っ込んでいった。スズナちゃん絶対に助けるからね!


「うわああああっ」ツムリはあっというまに竜巻に巻き込まれた。



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