新しい出逢い
来る日も来る日も資材を集める。
そんなある日、一人の女の人が流れ着いた。
ふらふらとして今にも倒れそうで、レインがすっ飛んでいった。
物好きだなあ。
私は集めてあった資材のてっぺんから、木の実を数個と飲み水を持って合流する。
女の人は酷く疲れているようだった。
なんだか少し、あの人に似てる。
「これどうぞ」
水と木の実を渡すと、女の人は驚いたようだった。
それもそうだよね。
こんなところに子供が二人だけでいるんだもの。
「ありがとう」
木の実は食べずに、水だけを飲みながら、彼女は吐息をこぼす。
彼女はスノウと名乗った。
ここに辿り着いた理由はあの人と一緒。
生活が苦しくて、楽園を探して旅をしてきたんだって。
「今はないけど、作ってるんだ」
レインが笑顔でスノウを誘う。
スノウもよせばいいのに、行くところがないからなんて言って申し出を受けた。
あ、それは私も同じか。
結果的にこの判断は正しかった。
まず、私たちの食料事情がかなり改善された。
スノウは料理上手で、食用の草花や小動物用のワナなんかを作って炊事を担当してくれた。
それに、綿の木という木に成る実を集めて糸を紡いで、花の汁で染め上げて洋服を編んだりもしてくれた。
そのうち野鳥がつがいでワナにかかったので、新鮮な卵も食卓に並ぶようになった。
相変わらず小屋は出来ないけど、簡単な屋根のある休憩所ならつくることができた。
そうしてまた何日も作業をしていると、クラウドという男が来た。
クラウドは小屋造りを手伝ってくれて、格段に作業が進んだ。
ついに湖の畔に、小屋が建った。
まだ宿屋というには小さいけれど、四人で住むには充分。
野鳥や捕まえた動物の檻も作って、なんだか急に所帯染みてきた。
クラウドが畑を作ろうと言って、大分食卓が華やかになった。
季節が巡って、夏が過ぎ、秋がきた。
冬がくる前に食料を備蓄しなくてはならない。
冬の間は建物を建てられないから、私はスノウに縫い物を習うことにした。
宿屋をやるなら、ベッドに使うシーツや布団がいるものね。
クラウドとレインは宿屋の間取りや何かについて相談していて、来年には本格的に宿屋を始められそうだと意気込んでいた。
冬のある日、旅人が訪れた。
吹雪で立ち往生してしまったから、数日泊めて欲しいと言っていた。
この旅人が、果樹の苗や野菜の種をお礼にくれた。
果樹は育つまでに何年もかかるけど、いつか湖の水でおいしい果実酒を作るのだとスノウが喜んでいた。
「雪、やまないね」
外はきっと寒いのだろう。
湖は凍りついていて、どんよりとした空の色と合わさり私の気分まで沈みそうだ。
「仕方ないよ」
私とレインは閉め切った小屋のなかでスノウの手伝いをしていた。
外の動物たちにやるエサを作っているのだ。
「早く春になればいいのに」
これは私の本心だ。
あの人は怒るかもしれないけど、私はこんな生活を楽しみ始めていた。
雪が融け、待ちに待った春。
レインと出会って一年がたった。
何度か旅人が立ち寄ったけど、幸いなことに私たちのような流れ者は訪れなかった。
外で作業が出来るようになって、レインとクラウドは張り切って宿屋造りに励んでいた。
私も手伝うけど、宿屋の営業を始めたときのために料理も教わったりしていた。
スノウ一人だと大変だろうから。
大きな柱と梁を渡すのは、骨がおれた。
全員で協力して骨組みが出来たときは、スノウが腕をふるってご馳走を作ってくれた。
「今日だけは特別ね」
そう言って出してくれたのは、野鳥一匹を焼いたものと、マッシュポテト、畑で作った野菜のサラダだった。
「おいしいね」
食卓を囲む楽しさなんてずっと忘れてたはずなのに、この四人で生活するようになってからは楽しいと思えることが増えた。
大変じゃない日なんてない。
毎日やることが山積みで疲れてるはずなのに、楽しい。
不思議だよね。
私はぼんやりとそんなことを思いながら、ここにあの人がいればもっとよかったのになんて。
そんなことを思った。