第48話:〜胸騒ぎ〜
また二ヶ月ぶりです。もうすぐで一周年になるのでそろそろ終わらしたいと思います。勝手で申し訳ありません。いつまでも長引かせる訳にはいきませんので。 ではどうぞ。
「ヒカル、気持ち良い?」
「う〜〜はぁ、気持ち良い……」
「じゃあもっとしてあげる」
「お、ありがとうってイタタタタタ! そこ、違う! 肩が外れる!」
イタタタタタタ……やぁ、光です。
俺は、このくそ寒い冬の床で寝そべりながらレナにマッサージしてもらっていたのだが、こいつヴァンパイアな訳であって、たま〜に力が強すぎて痛い。
俺は外れそうになった肩を摩りながら、朝飯を食ってない事に気付く。ていうか、今日、学校だし。
とっとと朝飯食って行かなきゃ。遅刻する。
俺はレナを背中から退かして、キッチンへ。
棚からフライパンを出し、洗う。う、冷たい。
冬の水は冷たいな〜手が荒れちまうぜ。
「ヒカル〜ボク、なんか手伝う事ある?」
「そこで見ていてくれてると一番助かる」
「酷い! ボクだって、料理くらい作れるよ!」
殺人料理はな。
マジで昇天するからアレは止めて欲しい。
彰でさえ、昇天したんだから。この俺みたいな到って常識人が食ったら死ぬ。ていうか前、お花畑が見えたし。
てな訳で、レナはほっといて朝の定番目玉焼きを作る。だけど確か前、レナに文句を付けられたような………。ま、いっか。
「あ、目玉焼きだーー。血入れないの?」
「入れるか、バカ」
そういえば、最近血を飲ましてなかったよな。
そろそろ飲ましてやらなければ。
ガブ………。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い!」
言ってるそばからこれだよ。
俺の首筋を噛んだレナは血を美味しそうに吸ってる。
というか、びっくりしてフライパンを落とすところだったぜ。ギリギリセーフ。
「いきなり噛むなバカ!」
「ん……だってぇ〜〜」
「危うくフライパン落とすところだったんだからな全く」
なんだかんだやってる内に二人分の目玉焼きが出来た。ちなみに、双子の卵だったので小さい。だからそれにトーストも加えて、はい完成。
「いただきます」
俺が合掌をするとレナもあわせてする。もう日課になってしまった。
「…………………」
「…………………」
あーー話す事ねぇ〜。
まぁ、レナは何かを食う時無口になる性格だからな。だけど、いつも喋りっぱなしだからこういう時くらいは大人しくてもいい。ていうか大人しくしてくれって感じだ。
そういえば、猛獣も餌を食ってる時は大人しいって誰が言ったんだろうか? ごもっともだと俺は思う。
「ごちそうさまでした〜〜〜」
レナはいつの間にか食い終わっていて、学校に行く準備をしようとしてる。
こらこらちゃんと食器は片付けろよ。
俺も食い終わり、二人分の食器をキッチンに持っていき、置く。そして水につける。後で洗う事にするからだ。
新聞記事をチェック……したいところだが、今日は時間がないのでやめておく。
「ヒカル〜準備出来た?」
「もう少し」
鞄の中に入れる物。
ペンケース。
ウォークマン。
プルーン。貧血にならないように。
ポケットティッシュ。
よし、準備完了。ん? 勉強道具? 俺にはそんな物いらないぜ。
「レナーー。行くぞー」
「うん!」
俺は玄関のドアを開けて、外に出る。
うひょ〜〜さみぃ〜耳が痛!
「よし、ちゃっちゃと行きますか」
俺達は学校へと向かった。
学校に着くと同時に校門で聞き慣れた声に呼び止められた。
金髪のツンツン……彰である。
彰は走ってきたらしく額に少量の汗をかいていた。
「よぉ。お前達も遅刻なのか?」
「彰と一緒に遅刻とは……俺も落ちぶれたものだ……」
「どういう意味だコラ」
彰となんだかんだ言っていたがレナが早くしないと、と急かしたので俺と彰は争いを止めて校内に入った。
昼休み……。
俺は幸治の机の前に集まっていた。無論『集まっていた』という事は他にも人がいるのである。まあ、俺は集まらなくても幸治の席の前なんだがな。
集まっているのは、俺とレナと寿さん、それに彰だ。勿論幸治もいる。
「で、どうする?」
彰が小声で言う。
俺達は、話し合っていた。
「年越しパーティー、誰の家でやる?」
そう、年越しパーティー。
俺ははっきり言って、その日にはちょうど観たい番組が二つもあるのだがパスは出来なかった。
「それは、やっぱり幸治ん家だろ? 広いし。何か作る時も材料があるし」
幸治が頷く。どうやら幸治ん家でいいらしい。やるとこが決まれば、後は簡単だ。何かをやればいいだけ。
「で、具体的には何をやるんだ?」
「ん〜〜。あ! ロシアンルーレット風にしたシュークリームを食べるってのは?」
レナが思い付きで言った。話しを聞いてる限りシュークリームの中にワサビやらカラシやらを詰めこんだやつを普通のシュークリームに混ぜて一人ずつ食べていくらしいのだが。
勿体ない。普通に食った方が絶対にいい。
「光。お前はなんかやりたい事あるか?」
「いや、強いて言うならゴロゴロしてテレビ観たい」
「お前に聞いたオレが馬鹿だった」
彰は呆れて、またレナ達と相談していた。
校庭をガラス越しに見る。ふと胸騒ぎがした。校庭に死んだカラスがこっちを恨めしそうに見てなければ、黒猫が殺意を剥き出しにして見てる訳でもない。
直感。
この言葉は俺が大好きな言葉だ。直感は自分を信じる事になる。それに下手な理論より直感を頼った方が良い事がよくあった。
その直感が、何かを告げている。
年越しパーティーに行ったら何かあるのだろうか? あれか? 俺がオリジナルシュークリームに当たるってか?
まぁ、どんな事でも胸騒ぎがしたのは忘れないでおこう。
「――カル。ヒカル!」
レナが俺を呼んでた。どうやら考えてた内に昼休みが終わってしまったらしい。
レナは、大丈夫? と俺に聞いて来たから俺は頷いて返した……。
放課後。いつの間にか俺は買い物係に任命されていたらしい。レナも一緒だ。
俺は教室から出る為、鞄を持った時、担任の鬼塚に呼び止められた。
「おい。今日はどうしたんだ? 俺の授業はいつもよりまともに聞いてないし、チョークを投げても避けないし。なんか悩みでもあるのか?」
鬼塚はこれで心配してるのだろう。やはり、教師だ。
だが、
「なんなら、職員室で悩みを聞いてやる。ていうか言え。言うまで帰さないからな」
「え、ちょ鬼塚じゃなくて先生! 俺今日約束が……」
「あん? 約束なんてのは破る為にあるんだよ」
教師としてあるまじき台詞をはいて、俺の襟首を掴み、強引に職員室へと連れていった。
レナは『家で待ってるね』と言っていた。
結局、鬼塚との話しに2、3時間付き合わされた。しかも後半は鬼塚の愚痴に変わっていったので、聞いてるだけでイライラした。
腕時計をみる。7時。約束の時間は6時からだったから大幅に遅れている。
「こりゃ、後で罰ゲームをやらされるだろうな」
ため息をつく。ため息をつくと、幸運が逃げるというがはなっから幸運はない。だから心配なしにため息をつける。
俺は家に帰ってから着替えて幸治ん家にいくつもりだ。
俺はアパートに着く。
そういえばレナは待っているのか? 電気は点いてるみたいだが。
自分の号室まで行き、ドアノブに手をかける。
「っ!」
身構える。奥の方で殺気がしたからだ。
レナの気配は………する。だけど別の何かの気配もある。
なんだ? 一体?
ドアは……鍵が開いてる。
なら………。
ドアを開けて一気に突っ込む。
「なっ!」
居間にレナはいた。いたのだが、それに対極するように誰かいる。
「あ、ヒカル………」
レナが急いでこっちに駆け寄ってきた。眼は何かに怯えてる。
おそらく………。
目の前にいる4人に殺気を込めながら話し掛ける。
「おい、あんたら、ここは俺の家だぞ? 間違えたなら、さっさとどっか行け」
「これはこれは……失礼いたしました。私はアレク修道院異端狩り第一部隊隊長のレン・フォーランドです。それで横にいるのは隊員のミカルとノネ、それとアルドです」
順に挨拶をしてくる。
だけどそんなのは関係ない。
「アレク修道院?」
そういえばこいつら、聖職に就いてる奴らみたいな格好してる。
ミカルという奴は物凄い無愛想。ノネはお子様みたいだ。後の二人は普通だ。
「で、その何とか部隊さんがこんな平凡な高校生に何のようだ? 勧誘はお断りだぜ? あいにく神様は信じちゃいないんでね」
「神を信じていないのは残念ですね。ですが私達が用があるのは貴方じゃありません。その後ろにいる、ヴァンパイア、レナ・メイル・アルフエルです」
レナを指差すレン。レナは何でこんなに怯えているのだろうか。
ま、それはこれから分かるか。
「なんだ? レナを聖歌隊でも勧誘しようとしてるのか? だめだ、だめだ。声は綺麗だが歌は下手だぞ」
「はは……そうなんですか。ですが、聖歌隊への勧誘でもありません」
と、するとあれか………。
俺はレナの手を握る。
「レナ・メイル・アルフエルを異端の者として…………討伐(狩り)に来ました」
「ほほう、そいつはどうも!」
俺は言うと同時に部屋の隅にあるスイッチを消す。
「レナ!」
レナの手を強く握って玄関を目指す。
こういう時は逃げるに限る。
玄関のドアを開けて、俺達は外に駆け出した……。
逃げ出した際に逃がしませんよ、と言う声が聞こえたが、気にしないでおこう。