第39話:〜旅行(初日2)〜
《お父さん! お母さん! 早く早く!》
噴水がある、小さい公園。
噴水の近くに聳える大木。
そこに、二人の男女と、まだ幼い男の子が見える。
サッカーをしてるらしい。
ん? なんだ? これ……昔の……俺?
《ははっ、元気だな〜光は》
《うん! だって、楽しいんだもん》
無邪気で明るく、活発な昔の俺。
《そろそろお昼時ですし、帰りましょうか》
《ん? ああ、そうだな》
《ええ〜もう少し、遊ぼうよ〜〜》
昔の俺は駄々っ子だったらしい。今では覚えてないが。
そんな俺に母さんは、自分の手を俺の頭にのせて、大人しくさせた。いや、的確には言葉で大人しくさせた。
《ヒカル? ちゃ〜〜んと、お昼ご飯は食べないと、頭が痛くなって遊べなくなってしまいますよ》
母さんはいつもそうだったな〜。
言う事を聞かないから怒るのではなくて、相手を自分から言う事を聞くようにするんだったよな〜。
《よし。じゃあご飯食べたら、またサッカーやるか?》
《うん!》
はぁ〜〜〜俺はいつ頃からこんな捻くれたのか………
そこで、俺の夢は途切れた。
起きる。
いつもの部屋と違う。
ここ……何処だ?
三つのベットに、窓から見える太陽に反射して宝石みたいに見える海。
さらに、床には俺の以外の鞄。
あぁ……彰達と旅行に来たんだっけ?
まだ、眠い。目を擦りながら近くの時計を確認する。
時刻は十時ジャスト。
俺は、重い身体をベットから起こして立ち上がる。
「さて、皆のとこ行かなきゃな」
自分の旅行用の鞄から海水パンツとゴーグルを取り出す。
それを、袋の中に入れて部屋を出る。
部屋を出ると右側に廊下を歩いて、エレベーターを目指す。
う〜〜〜ん、やっぱりなんか気持ちが晴れない。
朝、ホテルに来た時からそうだ。
何故か旅行だっていうのに、楽しいと思う気持ちが沸き上がらない。
「畜生……何だってんだよ全く」
俺はエレベーターに乗りながら悪態をついた。
が、すぐに、軽い気持ちになった。
ま、海とか入れば少しはテンション上がるか。
俺はエレベーターを降りて、海へと向かった。
限りなく続く水平線が見え、砂浜には結構な量の人達。
海の音はその、結構な量の人達によって掻き消されていた。
「しかし……」
彰達は何処にいるんだ? 人が多くて全然見つかりやしねぇ。
俺は先程、海へ来たのだが彰達が全然見つからない。
もしかして皆、もうホテルに戻ったのか? それで入れ違いに……
いや、そしたらロビーで鉢合わせになるはずなんだけどな……。
一応ホテルへ戻ってみるか。
俺が先程来た道を進もうと思い、海とは反対方向に背を向けた時、後ろから何かが飛んできた。
だけど、さほど痛くはない。
柔らかいものだ。
俺は下を見る。
そこにはピンク色のビーチボールがあった。
誰のだ?
それを広い上げて、周りを見渡していると、小さな女の子が駆け寄って来た。
「これ、君の?」
その女の子は頷き、手を差し延べる。
あぁ、返せという事か。
「はい」
俺はしゃがんで女の子にビーチボールを渡す。
「ありがとう。貧乏そうなお兄ちゃん!」
女の子は満面の笑みで、精神的ダメージがたっぷりの言葉を言い放った。
そして、家族の元へと帰って行く。
ふぅ〜〜〜
最近の金持ちの子は、あんな言葉を平気で言い放つんだな……
ていうか、俺ってそんな貧乏そうなオーラでも出してるのか……
俺が落胆していると、後ろから聞き慣れた声。
振り向くと、捜していた彰達だった。
彰が俺の近くに寄り添い、肩をポンっと叩く。
「光………お前、あんな小さな子に貧乏呼ばわりされるなんて」
「うっさい。ていうか、お前達何処に行ってたんだ?」
俺は聞く。すると、寿さんが答えた。
「光さんを捜してたんです。それで、部屋に行ったら居なくて」
「そうか……」
やはり、入れ違いになっていたようだ。
「やれやれ……オレ達、光が来るの待ってたんだぜ?」
「いや、待たなくても」
「レナちゃんから話しは聞いた。お前、なんか今日変らしいな?」
「変じゃない」
嘘………俺だって自分で変だって認識してる。
だけど何故かわからないんだよって−−ウワっ!
俺はいきなり、彰と幸治に両腕を引かれ、後ろからはレナと寿さんが背中を押してくる。
向かってる先は海。
「え!? ちょ! 待て!」
「問答無用! 悩んでる事なんか、全て水に流しちまえ!」
ドボーンという大きな音と共に、俺は海の水で身体中ビショビショになる。海水パンツはいてるので大丈夫だが。
こいつら………
「よくもやったな!」
俺は立ち上がり、彰の腕を掴んで海へと引き込み、俺の二の舞にする。
幸治も、海へ思いきり、ダイブする。
「じゃ、ボク達も入りますか」
「そうね」
寿さんもレナも小走りで海へ駆けてくる。
ん? ブハっ!
俺は見てしまった………
走ってくる寿さんとレナの揺れる胸部を………
や、ヤバい! 二人共、妙にスタイルが良いから、水着なんかになってしまうと目のやり場に困ってしまう。
俺はすぐさま、視線を泳がす。
「ん? 光。お前、なんで視線が定まってないんだ? あ、まさか」
そんな時、彰に視線が泳いでる理由を見破られ、俺ピンチ。
彰は邪悪な笑みを見せる。
「お〜い、レナちゃんと香苗ちゃん! 光がさぁ〜ゴフっ!」
「良からぬ事を喋るな!」
俺は彰に鳩尾強打し、黙らせる。
一件落着………と思った俺がバカだった。
レナは俺の前に来て、くるりと一回転する。
「どう? 似合ってる?」
「あ、ああ」
似合いすぎです。はい。
上下ブルーのビキニに、髪をツインテールにしてる。
はっきり言って普通の健康少年だったら悩殺されかねない。
「わ、私もどうですか?」
「う、うん。似合ってる」
寿さんは黒のワンピース型の水着。
一見、なんも魅力はないのだが、その少し恥じらった姿が男心をくすぐる。
って………なんて、彰みたいな解説してるんだ俺は。
「あーー、ヒカル、赤くなってるーー。エッチぃ〜〜」
「な、んな訳ない………と、思う」
最後の方は、少し小声で。
「お〜い、光、幸治、レナちゃん、香苗ちゃん」
いつの間にか、彰は砂浜にいて、なんかを用意していた。
俺達は呼ばれた方に向かう。
「夏っていったら、やっぱコレだろ」
彰はスイカを片手に持ち、笑う。
あ〜〜スイカ割りか〜〜
確かに、海ではスイカ割りが、定番だな
「くじが、ここにあるから、これで当たった奴が割る役だ。ほら、引いた引いた」
彰の言う通りに皆、くじを引く。
どうか、割る役になりませんように。
俺は神に祈りながら、くじを引いた。
先っぽが赤く染まったくじ。
「お、光が割る役か」
1番めんどくさい役になってしまった。
俺は渋々、彰から棒とタオルを受け取る。
じゃ、始めますか。
時刻は夜の十一時九分。
皆が部屋で寝るなり、なんなりしてる時間である。
そんな中、俺は一人でロビーにいた。
あ〜〜今日は散々だったな〜〜。
スイカを割る役をやったんだが、ちっとも当たりやしねぇ。
彰は変な指示出すし。
おかげで、海までいって貝で足切っちまったじゃねぇか。
ま、スイカが美味かったから良いんだけど。
あ、俺が今ロビーにいるのは、あんだけ暴れ回ったのに眠くなく、彰とかは爆睡。暇で、ロビーに来たのだ。
「あ〜畜生〜」
まだ、あのモヤモヤした気持ちがある。
ホテルに来た時からの気持ちだ。
「なんなんだよなぁ〜〜全くよ」
ソファーに深く腰を沈めてうなだれる。
そこに、こんな時間にチェックアウトする家族連れ。
……………………。
「家族……か」
そういや、中国に行った時、こんな感じのホテルだったよな〜。
俺は昔を思い出しながら、周囲を見る。
あぁ……そうか……。
両親が死ぬ間際、最後に両親を見たのがホテルの部屋だっけ………。
それで、俺はホテルに来てから変な気持ちになってたのか。昔の嫌な記憶が蘇って。
あの時……一緒についていけば……もしかしたら、生きてたかも知れないのに。
俺はバカだなぁ〜〜。
そんな事をずっと思ってると急に眠気がして、部屋まで行くのがめんどくさいのでそのままロビーで寝てしまった………。
第39話:〜旅行(初日2)〜を読んで頂きありがとうございます。今回は無事更新する事ができました!(ギリギリですけど)ま、次にちゃんと更新出来るかビミョーなんですけど……あ、アクセス数が20000件を越えましたのでここに記しときます!ありがとうございます!更に、上を目指して頑張っていきたいので応援よろしくお願いします。では、これからも居候はヴァンパイア!をよろしくお願いします!