第33話:〜純粋の血〜
「イテテテテテテ………」
俺はどうやら気絶していたらしい。恐らく、ヴァンパイア界に来る時に頭でも打ったのか。
目覚めた場所は映画でよく観る、上からカーテンみたいのが垂れ下がった金持ちが寝るようなベットだ。
電気は………ない。ただし、窓から光りがこぼれている為、幾分か明るい。空は青いし、光ってる丸い球体もある。太陽で、ないとは思うが。
なにより、部屋が俺のより、数倍広い。
ベットの左隣りには、鏡付きの机があり、上には、くしがある。
壁紙は薔薇の模様がデザインされており、床は大理石である。
その、造りからこの部屋には気品が溢れている。
壁には絵画が何枚か飾られている。
「しかし……何処だよ、ここ」
ヴァンパイア界である事はわかってるのだが、ヴァンパイア界の何処か知りたい。
というか、レナは? レナは何処に行った? あいつがいなきゃ、この世界の事、全然わからないぞ?
俺はベットから下りて、近くにあったスリッパを履く。少し足が冷たくなる。
どうやら、ヴァンパイア界は日本と同じで靴は玄関で脱ぐと推測した。
勝手な推測だが………
まぁ、そんな推測はさておき、早急にレナを捜さなければ……そう思いながら、ドアを開けようとすると、いきなりドアは勢いよく開けられて俺の顔面、ドアに直撃。
俺の頭上にはピヨピヨが浮かびそうになる。
「痛ッ! 誰だよ!」
室内に入って来たのは、今から捜そうと思ってたレナ。
「あっ! 起きたんだ!」
「『起きたんだ』じゃねぇ! いきなり、いなくなったと思ったら、俺に不意打ち決めやがって!」
「あはは〜〜ごめ〜〜ん。あ、それより、ボクのパパとママが呼んでるから、パパとママの部屋に行こう?」
レナは俺の腕を握り、走りだす。
部屋を出ると、そこは……廊下です。はい、物凄い長い。
所々に窓があり、光りが差し込んで、廊下を全体を照らしている。
ん? そういえば、なんでレナはヴァンパイアなのに、光りを浴びて大丈夫なんだ?
俺は腦をフル回転させるが、結局はレナの父さんや母さんに聞けばいいという結論に行き当たった。
しばらく長い廊下を歩いてると、突き当たりに一つの大きな扉があった。
レナはそこのドアを勢いよく、開けて中に入る。
勿論、俺も。
部屋に入ると先程の部屋と同じように電気が無く、壁は薔薇の壁紙、床は大理石で構成されており、所々に絵画。
先程と違うのは男女が椅子に座り、テーブルを挟みながら、トランプをやっているという事。
めちゃくちゃ、この部屋とあわね〜〜〜。
気品溢れる、部屋でトランプ。
しかも、七ならべ。
まぁ、誰なのかは予想がつくな。
「パパ、ママ! ヒカル、連れて来たよ!」
やっぱり………お前の親か……
大体は予想はついたけど、まさか本当にとは。
「お、来たか!」
「いらっしゃい」
前者は男。
大柄で、俺より身長は高い。彰と同じぐらいだろう。髪は真っ黒で、野性心が溢れている。
何と言うか、出陣前夜に多くの仲間と酒をどれだけ飲めるか競うような方だ。
まぁ、要するに気さくで笑い声が『ガハハ』な感じ。
後者は女。
小柄で、レナよりも少し身長が大きいぐらい。髪はエメラルド色。
レナに顔付きが似ているが微笑みを絶やさずに俺達の事を見ている。全く、レナとは性格が反対だ。こちらは、寿さんみたいな感じかな? 大人しそう。
「あ、どうも。夢村 光です」
俺は二人に向かって、二度お辞儀をする。
すると、男の方が野太い声をあげる。
「お前がヒカルって言うのか! レナから話しは聞いてる。レナが世話になってるな。それと、俺はこのヴァンパイア界を統べるヴァンパイア。バルグルズ・ガラー・アルフエルだ。バルって呼んでくれ」
言い終わるとバルさんは俺に向かって右手を差し出して握手を求めてくる。
俺はそれに応じて右手を差し出す。
がっちりと握手をされた。
それはもう、がっちりと。俺の手が潰れるくらい。
「イデデデデデ!!」
「あぁ、すまん」
バルさんは、俺が苦痛を訴えるとすぐに手を離した。
「すまん。わざとじゃないんだが、ついつい、愛しい娘の身体をこの忌まわしき手が抱いてるのかと思ったら力を込めすぎた」
「抱いてません」
ぜ、絶対、このヴァンパイア、わざとだ!
俺は右手を左手で摩る。
すると、右の手の平には小さな紙切れがあった。
俺はなんだろう、と思いながら紙切れを見ると、日本語で書いてあった。
『娘……レナの事を汚したら、貴様の血を全部吸い取って日干しにしてやると思え♪
by バル♪』
何? この、物騒な紙切れ。赤い紙切れより、余程不吉だけど。
それに、♪までついてるし……
俺が紙切れを見終わるとバルさんは親指を立てて、グッジョブサイン。
俺は全然グッジョブじゃないですよ、バルさん。俺は内心、蒼白です。
「どうしたの? ヒカル?」
「ん? アハハ……俺、日干しにされるって」
「へ?」
レナは頭に ? を浮かべて俺を見る。
だが、それは無視。
何故なら紙切れには小さく『この事をレナに喋っても同じだぜ?』と記されていた。
俺はバルさんに向かって、何度も頷いた。
バルさんは笑い、それでいいと声には出さないものの、唇を動かして、それを俺に伝えた。
俺とバルさんで無言のやり取りをしていると、ちょんちょんと肩を叩かれた。
振り向くと、レナに似ている女性。
おそらく、レナの母親だ。
その女性はお辞儀を一回する。
「いつも、娘がお世話になっています。ワタシはバルの妻のラーマ・ベルタ・アルフエルです。友人からはベルと言われています。以後、よろしくお願いします」
「は、はい………え?」
俺はたじろぐ。
レナに似てない丁寧な言葉使いと、いきなり俺の首筋にガブリとしたのだ。
俺は状況を飲み込めない。
ベルさん以外、ア然。
そしてバルさんは狂乱し、爪を起てて俺に襲い掛かってくる。
「貴様ぁぁぁ! 娘では飽きたらず、妻までに手を出すとはぁぁ!」
狂乱して襲い掛かってくるバルさんをレナは抑えて、ベルさんに言う。
「パパ! 抑えて、抑えて。それよりも、ママ?! なにしてるの?!」
レナはバルさんをなだめて、落ち着かせる。
ベルさんは、俺の首筋から犬歯を引き抜き、言った。
「ヒカルさんの、血は凄い純粋で美味しいですね。レナが好きになる訳です。それに、何処か、あなたに似ている」
バルさんに向かって。
バルさん驚き、俺を見る。
その眼は先程、狂乱をしていた眼ではなく、信じられないと言う眼だった。
どうしたんだろうか? レナやバルさんは変な様子だ。
突然
「ヒカル。お前、凄いな! まさか、ベルに純粋の血って言わせるなんてよ〜」
バルさんに背中を叩かれた。
レナも、目を輝かせている。
「ヒカル。凄い凄い! 純粋の血だって!」
俺は全く、話しが読めずうろたえるばかり。
「純粋の血ってなに?」
俺は聞いてみる事にした。
それにレナが応える。。
「純粋の血って言うのは、ヴァンパイア達では凄い事なの」
「だから、何が?」
「え〜〜っとね、ママはヴァンパイア界でも血に関する味覚が凄いいいの。そのママに純粋の血って言われるのは凄い事なんだよ? 純粋の血って言うのは………」
レナは少し考えて、また説明し始めた。
「純粋の血って言うのは、濁りがない血の事。これは、人間にしかない血で純粋の血は極小数なんだ。それで珍しいって訳」
「それだけ?」
「ううん、まだあるよ。純粋の血を――――」
「わかった。長くなりそうだからいい」
俺はレナの口を手で塞ぎ、説明を中断させた。
そして、ちょうど、腕時計をしていた事に気付く。
時刻は十八時三十二分。
時間たつの早ッ! やば! 早く帰らなきゃ! タイムサービスが終わってしまう!
「すいません。もう少し、聞きたい事があったのですが用事があるので、ここで失礼させてもらいます! レナ、ワープホール!」
「え〜〜もう少し、ここに居ようよ〜〜」
「晩飯が当分抜きでいいなら、ここに居るぞ?」
「ワープホール作動ーー」
レナは俺の晩飯抜き宣言を聞くやいなや、慌ててテレパシアを出して黒い穴を出した。
「突然だな、ヒカルよ」
「すいません。少し用事があるので」
「また来て下さいね」
「はい、必ず」
俺はワープホールの中に入る。
一瞬で暗闇に包まれた。
残された、バルとベルは笑っていた。
「あの二人、絶対離れる事はないでしょうね? あなた?」
「大事な娘を取られるのは、カンに障るがな」
「純粋の血ですもんね……」
ベルの呟きを最後にこの部屋は静寂になった。
結局、帰った俺だがタイムサービスには間に合わなかった。
しかも、レナはレナで、噛み付いてばっかくるし………
貧血になるっつーの。
俺は疲れた身体を休める為に居間から自室に行き首筋を摩りながら眠った。
『純粋の血を最初に飲んだヴァンパイアはその純粋の血を体内に巡らせている人と永遠に結ばれる…………かも?』
<ヴァンパイア記録 純粋の血の章 著者 ラーマ>
第33話:〜純粋の血〜を読んで頂きありがとうございます。え〜〜アクセス数が16000件を越えました♪皆さんのおかげですね。ありがとうございます。それと、七夕編を出したかったのですが、時間がなくて出来ませんでした…………ですが! 策は練ってありますのでご安心を。では、これからも居候はヴァンパイア!をよろしくお願いします。次回の更新は水曜日か木曜日です。