第11話:〜光の過去3〜
光が稟の家に来て次の日。
光は動けない状態だった。
「あがごべづべだいづべだい」
滝修行。みんなは聞いた事があるだろうか。滝にうたれて身を清める修行。それを今、光はやっている。
時刻は六時。まだ水が物凄い冷たい時間である。
拳法の練習をする前にまず滝に三分うたれてこいと言われたのでうたれてる。
「くぞ〜〜〜ギヅい〜〜」
「よし、三分たったぞ。あがってこい」
「ばい、わがりまじた」
滝から急いで逃れる。
これを毎日三分続けるのはさすがに身がもたない。
「リンさ………師匠」
修行中は師匠と呼べと言われてる。
多分、雰囲気作りだろ。
「なんだ?」
「これ、毎日やるんですか?」
「当たり前だ」
…………死んじゃう………。
「ほらタオルだ」
「ありがとうございます」
「次はいよいよ拳法の練習だ。練習って言っても、まず基礎訓練からだけど」
滝からから離れ、次は家へ向かう。
途中、砂袋を腰に吊された。
鬼だ…………。修行中は鬼だ、悪魔だ。
「なんか言ったか?」
どうやら呟いてたらしい。
「なんでもありません。とっとと行きましょう師匠。腰が凄く重いです」
「そうだな」
光は愕然としている。
家に着いて一段落できる…………と思ったら、いきなり豚の丸焼きに使う道具らしき物を出してそれで腹筋を鍛えろというのだ。
なんだ? つまり、豚の丸焼きになれって事か………。
「し………」
「問答無用。切り捨て御免」
「あんた、中国人だろぉーーー!!」
文句を言う直前に軽々持ち上げられ無理矢理腹筋を鍛える構えにされた。
「腹筋二百回。始め!」
「くっ……一、二、三」
死ぬーーー!!
「ほらほら遅いぞー。もう遅いから火を焚いちゃう」
「十一………へ?」
あろう事か腹筋をしている光の下で火を焚き始めた。
薪が燃える音がする。
「ほらほら〜〜死ぬ気でやらないと、頭が燃えるぞ〜〜」
「ギャーーー! 鬼! 悪魔! バカ!」
「アハハハハハ、なんとでも言え」
くそー! 調子にのりやがってーー。
「ほらほらほらほら、フゥフゥ〜〜」
さらに、火が強さを増す。どうやら、竹の筒で火に息を吹き掛けてるようだ。
「やめてーーー! やめろーーー! やめてくださ〜〜〜い。師匠、お姉さん、女王様ーーー!!」
多少、『アレ』な言葉を吐きつつも懇願する。
「だ〜〜〜め! ほら後、五十回。それに火付けてけてから数段に腹筋、速くなったじゃん」
そりゃそうだ。
そうしなきゃ、頭がチリチリのテンパ〜〜になってしまう。
あなたはその怖さがわかってるのか?
「当たり前ですよ。こんなふざけ………」
「フゥフゥフゥーー」
「アチチチチチ、すいませんすいません。謝ります。だからやめてーーー!!」
光の絶叫が山に響いた。
光は地にへばってた。
「ハァハァハァ。し、死ぬかと思った………」
「はい、よく頑張りました♪じゃあ、朝ご飯にしよ♪」
なに事もなかったようにしやがって! 貴様に受けた仕打ち、いつか必ず返す!
光はやっとの事で身体を起こし、物騒な事を考えながら家の中へ入った。
「朝ご飯、昨日の残りでいいよね?」
「え? はい」
稟はそう言うと、昨日、干した猪の肉を皿に置きいつのまにか飯盒で焚いたご飯を今日のメニューにした。
「はいどうぞ。食べ終わったら晩ご飯を探しに行くわよ。今日はキノコ中心に作りたいから、キノコを多めにね」
「やった〜。昼は修行なし?」
「なに言ってるの? キノコ探しのついでに、これを腰からぶら下げてもらうわよ」
光に渡されたのは、ロープが付いてるタイヤ。
「これを腰に下げるんですか?」
「ええ、そうよ」
旧式だなぁー。
どっかの青春漫画か?
「ほら、じゃあ行くよ」
「へ〜〜い」
「これ、キノコだよな?」
光は今、稟が言ってたキノコが多くとれる場所にきてる。
ここは山というより森に近い。緑があふれてる。
山は緑が無くて石ばっかりの所だと思ったけど、ここに来てからだいぶイメージが変わった。
「ふぅ〜〜、だいぶタイヤにも慣れてきたな」
腰に吊り下げてるタイヤを見て光は呟く。人間なんでも慣れだ。最初はきつかった事だって、同じ事を繰り返してたら慣れる。
そしてその重いタイヤを吊り下げながら、キノコをひたすら探す。
毒キノコは無いよな? あったらヤだな。
「お〜〜い、光。キノコ採れたか?」
遠くからリンさんの声が聞こえる。
「はい! 採れました」
「よし! じゃあとっとと引き上げるよ〜。そろそろ雨が降りそうだからね」
なるほど、確かに空が曇ってきてる。
しばらくして光と稟は合流し家へ戻った。
「じゃあ今日はこれで修行終わり♪」
「本当?! なんで?」
「雨が降りそうでしょ」
「そっか」
その時、リンさんの言うとおり雨が降ってきた。
外は暗い。
もうすぐで夜の七時だ。
一日は早いものだ。
「ほら、晩ご飯作るから手伝って!」
「わかりました」
光は石造りの調理場で準備をしてる稟の元へ向かい自分も手伝う。
「ねぇ、光」
「なんですか? 師匠」
「今は修行中じゃないからリンでいいよ」
「えっと……リン。なんですか?」
「なんか変だけどいいや。光はいつまで、ここに居るの?」
「いつまで、か………」
考えた事も無かった。
「いつまでだろ……。やっぱり、武術がある程度できるようになって、心身ともに清められてかな?………」
はっきり言って、当分はここに滞在するつもりだ。ていうか、飛行機に乗る金も無い。
「ふ〜ん。じゃあ、私が今から出す問題に答えられたら修行は終わり。多分、今の光には答えられないと思うけど」
「む………なんですか?」
少しバカにされた。
「問題内容は、『なんの為に拳を振る』………かよ」
『なんの為に拳を振る』……か。
光は悩む。当然だろう、この答えを知ってるのは誰もいない、自分で造りだすものだから。だが、光がこの答えを造りだすのはもう少し先の話である。
「ん〜〜〜わかんねぇ」
「て事はまだまだ修行が足りないって事」
「ちぇ〜〜」
「ふふっ、まだまだね」
「うっさい」
こんな話しをしてる間にいつの間にか料理ができあがってた。
光は二人分の皿を棚から出して机におく。
将来の光が料理できるのはここで得た知恵によるものだ。ただ、本気を出してないだけで、本気を出すとイタリアンだってつくれる。
「よし、食べよ」
「うん」
「はい、いただきます」
「いただきます」
もぐもぐ………。
「うまい!」
「当然よ〜。昔から料理を作ってるんだから」
そんな何気ない会話。
だけど、それが出来なくなるまで後、二年の月日。
違う意味で言えば光が問題の答えを造りだす月日だった………。
第11話:〜光の過去3〜を読んで頂きありがとうございます。今回は三人称と一人称を混ぜてみました。結構複雑でしたよね、すいません。これからも居候はヴァンパイア!をよろしくお願いします。次回の更新は日曜日、早ければ土日と連続で更新出来そうです。