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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

予知夢

作者: 真栄野〇藻

 闇の中で男は目を覚ました。悪夢でも見たのか、小刻みに体を震わせていた。しかし、すぐに落ち着きを取り戻し、もう一度横になって、目を閉じた。

 朝が来た。辺りに轟音が響き渡った。男は飛び起きた。男が外に飛び出すと海が山の麓の村を呑み込んでいた。山の中腹に位置する男の家は呑み込まれずに済んだが、男は青ざめ、膝をついた。

「ああ・・・・・・。これで・・・終わってしまう。」

男はそんなことを言うと、頭を掻き毟り、額を地面に擦り付け泣き、呑み込まれている途中の村から目をそらした。彼には分かっていた。この後起こる第二波が男の家を呑み込んでしまう事も、逃げなければ自らが呑み込まれ、海の藻屑と消えてしまうことも・・・・・・。



                         †



 男は狩人だった。山に入っては猪や鹿を狩り、生計を立てていた。

 ある日男は夢を見た。

 麓の村が燃えていた。村のほぼ中心に位置する家から炎が上がり、そこからあっという間に燃え広がり、村は火の海と化した。村では延焼を食い止めるために燃えている家を壊す作業をしていた。数時間で火は消えて、村の中心部だけがぽっかりと抜け落ちたように焼け野原となっていた。

 朝が来た。その日は大きな猪を狩ることができた。男は家に帰り、すぐに猪を解体していた。夕方になり、空が赤く染まっていた。赤く丸い夕日を見ると、その夕日をそのまま小さくしたような炎が村の中心にあるのが視界に入った。しばらく見ているとその小さな夕日はだんだんと大きくなり、村の中心部分が炎に呑み込まれた。夢の中と同じように延焼が食い止められ、村の中心部だけがぽっかりと抜け落ちたように焼け野原となっていた。赤い夕日はもうすでに無く、空には月や星が見えていた。

「・・・・・・なんだ・・・こりゃ・・・。夢と同じだ・・・。」

男はぼんやりとした様子でそう言った。空も炎も夢と同じだった。



                          †



 その日の夜、男は夢を見た。

 そこは真っ白な空間だった。その空間の中に男だけが立っていた。

「こんにちは。・・・いや、こんばんは、かなぁ?」

後から不意に声がした。男はすぐに振り向いた。そして、

「誰だ!」

そう叫んだ。そこには人間がいた。それは男と全く同じ姿をしていた。しかし、声だけは違った。先刻の声はまるでヒトではなくモノと言ったほうが適切であるような声だった。その声の主は言葉を続ける。

「あなたはある特殊な能力を身に付けました。村の火事、ふふふっ。夢で見た光景と一緒だったでしょう?」

声はまるで機械のように感情の無い声で話しているが、男と同じ姿をしたそれは表情だけは微妙に変化していた。

「つまり、予知夢が見られるようになったということか?」

男は尋ねたが、そのとき目が覚めた。そして、あの気味が悪い程現実と酷似した夢が予知夢だと理解した。



                 †



 別の日、男は夢を見た。

 男は麓の村に狩った獲物を売りに行き、帰る途中だった。男は家に帰るため、必ずある崖の前を通る必要があった。その日も通っている最中だった。その時、男はふと横を見た。そこには錆色の石が幾つも埋もれていた。その中には大きな塊もあった。男は試しに拳大のそれを一つ手にとってみた。ずっしりと重い。それは鉄鉱石のようだった。

 朝が来た。男は前の日狩り、乾燥させておいた鹿の肉を村に売りに行った。そして、帰る前に村人を何人か集め、夢に出てきた崖まで連れて来た。その中には鉱物に詳しい者もいた。

「ここら一帯で鉄鉱石が出るわけが無いだろう。」

「あんたの見間違いじゃねえのかい。」

連れて来る途中、皆口々にそう言った。しかし、そこには大量の鉄鉱石が埋まっており、その村はあっという間に採掘場となった。村は大きく栄えた。

 男はだんだん普通の夢を見なくなっていた。夢によって温泉を掘り当て、村はさらに栄えたし、地震を予言して村人を全員助けたこともあった。村人たちは感謝したが、その影では男の夢は大変なことから他愛も無いことまで全て現実の物となるのだった。男は村人たちの間で神格化した。



                 †



 ある日、男は夢を見た。

 村に化け物がやってきた。それらはハエのような頭と羽を持ち、カマキリのような鎌の付いた前足を持ち、クワガタムシのようなはさみを持った、たくさんの虫を合わせたような姿をしていた。しかも人間の二倍ほどの大きさだった。無論、そんな生き物が存在するはずが無い。その化け物は五匹いて、各々が村人を捕らえては、生きたまま、頭や腹からバリバリと食すのだった。化け物の中の一匹が男の方に向かってきて逃げる男を捕まえた。

 男は寝床から飛び起きた。しかしすぐに寝直した。恐ろしい夢ではあったが、あまりにばかばかしい夢だった。

 朝が来た。男は朝食を取り、弁当を作り、猟銃を持ち、山の中に入ろうとした。すると、村の方向から声が聞こえた。人間の物とは思えない程、鬼気迫るような、動物の鳴き声のような声だった。男はそちらを振り向いた。村の上空に何かがいた。男はそれを知っていた。男が知っているそれは男が知っているそれは村人を捕らえては食べていた。五匹村の中を飛び回っている。その中の一匹が男の方に向かってきた。男はすぐに銃を構えた。昨日の夢の中では男は食われてしまっていた。しかし男は、

「来るならこい! 殺してやる!」

そう怒鳴った。そのハエのようなカマキリのようなクワガタムシのような化け物は、男を食い殺そうと直進する。男は引き金を引いた。銃口から放たれた弾丸がその化け物のハエの頭を粉々にした。暗緑色の液体が傷口から溢れ出し、その化け物は山の中へと落ちていった。男はこのとき、自分の能力が予知夢を見る能力ではないと、理解していた。

「俺が生み出した化け物だ! 俺が殺してやる! 全員かかって来い!」

のどが張り裂けるような大声でそう叫び、弾丸を装填した。すると、化け物たちは仲間を殺された怒りからか、それとも男の挑発に乗ったのかは分からないが、全員男の方へ直進した。男は弾丸を放った。一匹死んだ。装填する。弾丸を放つ。この作業を何度か繰り返し、化け物を全滅させることができた。あちこちに転がっている化け物の死体は山の中まで運ばれ、放置された。男はその死体の山を長い間見続けていた。



                 †



 その日の夜、男は夢を見た。

 そこは一度、来たことのある場所だった。男はただ白いだけの空間に立っていた。

「お久しぶりです。」

後ろから聞き覚えのある声がして、男は振り向いた。そして、

「あんな生き物は見たことも聞いたことも無い。俺の夢の中に出てきたただの空想にすぎないはずだ。」

そう言った。男の姿をしたそれは、

「そうですか。」

とだけ言って、うれしそうに微笑んだ。男は続けた。

「俺の能力は予知無じゃない。あんたは予知夢だなんて言ってなかった。俺の能力は夢を現実の物にする能力なんだろう?」

「ええ。」

男の姿をしたものはそう言うと消えてしまった。

「俺はどうすればいい? 火事も化け物も地震も全て俺が作り出したものだ。それらはたくさんの人々を死に追いやった。それらを止めたなんて、ただの自作自演じゃないか!」

誰もいない、何も無い空間で叫ぶ男の声は響くこともなくただ虚しく、白の中に消えていった。



                          †



朝が来た。男は決めた。眠らなければ夢を見なくて済む。なら眠らないように、せめて夢を見ないようにしよう、そう決めた。

 いつものように狩りに行き、いつものように獲物を売る。それを三日間眠らずに続けたが、三日目の夜、気絶するように寝床に倒れ込んだ。

 男は夢を見た。

 寝床で轟音を聞き、外へ出ると海が麓の村を呑み込んでいるのだった。そして、その海が沖のほうに流れていくと、数分後、山の中腹まで海が届いた。男は自分の家とともに海に呑み込まれていった。

 男は目を覚ました。先刻見た映像が明日の朝来ることに恐れおののいた。しかし、彼は再び決断した。全てを終わらせようと・・・。そして眠った。それ以上夢は見なかった。

朝が来た。辺りに轟音が響き渡った。男は飛び起きた。男が外に飛び出すと海が山の麓の村を呑み込んでいた。山の中腹に位置する男の家は呑み込まれずに済んだが、男は青ざめ、膝をついた。

「ああ・・・・・・。これで・・・終わってしまう。」

男はそんなことを言うと、頭を掻き毟り、額を地面に擦り付け泣き、呑み込まれている途中の村から目をそらした。彼には分かっていた。この後起こる第二波が男の家を呑み込んでしまう事も、逃げなければ自らが呑み込まれ、海の藻屑と消えてしまうことも・・・・・・。

 そして第二波はやってきた。男は家ごと海に呑まれ、海の中に消えていった。



                 †



 水の中で男は夢を見た。

 この能力を失っている自分が平和に暮らしていた。男を神格化する者もいなければ、大きく繁栄もしていなかったが、平和でほのぼのとしていて、確実に幸せを感じていた。

 そんな幸せで普通の日常を自分が望んでいたことに初めて気付いた。こんな能力なんか要らない、心からそう望んだ結果がこの夢だった。



                          †



その後、この村が元の姿に戻ったことは言うまでも無い。


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