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雨の踊り子 〜魔法百貨堂〜  作者: 野村勇輔
7話目

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蝉の鳴く声 第9回

   8


 真帆ねぇのホウキに乗って、僕たちはあっという間に家に帰りついた。


 だけど、その運転のあまりの荒さに僕は目を回してしまい、ふらふら庭に降り立つと、倒れるようにして地面に四つん這いになった。


「大丈夫ですか?」

 真帆ねぇに背中を擦られながら、

「だ、大丈夫じゃない……!」

 僕はおえっとちょっとだけ吐いてしまった。


 口元をぬぐって大きく深呼吸をしていると、縁側の吐き出し窓が開いて、お父さんが庭に降りてきた。


 僕と真帆ねぇの姿に気づいたお父さんは、

「あれ? どうした、今日はいつもより早いじゃないか」


 そう言われて、僕はなんて答えればいいかわからず、とりあえず「うん」と頷いた。


 お父さんは不思議そうに首を傾げ、それから僕の隣に立つ真帆ねぇに目をやると、

「ん? 真帆、その髪――」

 真帆ねぇの長くなった髪を指さして、驚いたように口にした。


 けれど、すぐに「あぁ」と何か納得したように声を漏らすと、

「なるほどな」

 と呟いて、目を細めて僕を見た。


 それに対して、真帆ねぇはニヤリと笑うと、

「さて、私は疲れたので、ちょっとひと眠りしてきますね」

 僕たちを置いて、家に向かって歩き出す。


 お父さんはそんな真帆ねぇとすれ違いながら、

「真帆。あんまりうちの子をいたずらに巻き込むなよ?」

 と声を掛けた。


 真帆ねぇはふふっと笑い、

「大丈夫、わかってますよ!」

 そう言い残して、家の中へと入っていった。


 やれやれとため息を吐くお父さんに、僕は訊ねる。

「ねぇ、お父さん」

「ん?」

「真帆ねえって、魔女だったの?」


 お父さんはまじまじと僕の顔を見つめ、それから僕が吐いたものと傍らに立てかけられたホウキに目をやると、

「お前も、真帆のホウキに乗ったのか」


「……うん」

 と僕は頷き、

「お父さんも乗ったこと、ある?」


「昔、一度だけな」

 言ってから、お父さんは苦笑いしつつ、

「もう二度と乗りたくないって思ったな。翔もそうだろ?」


 僕はお父さんと顔を見合わせ、

「――うん」

 同じく苦笑しながら、そう答えた。





「じゃあね、真帆ねぇ」

 と手を振るおねぇちゃんに、

「はい、またお会いしましょう」

 真帆ねぇは笑顔で手を振り返す。


 夕方五時過ぎ。

 僕たちは真帆ねぇを見送るために、近くの小さな無人駅まで車で来ていた。


 てっきり真帆ねぇはホウキに乗って帰るのだとばかり思っていたけれど、帰りは電車に乗るらしい。


 それを真帆ねぇに言うと、

「確かにホウキの方が早いですけど、やっぱり電車の方が旅をしてるって気分になりませんか?」

 それが真帆ねぇの答えだった。


 真帆ねぇはお父さんやお母さん、おばあちゃんにも声を掛けると、「それじゃぁ、また来年」と言って改札口を抜けていく。


 ところが数歩進んだところで「あっ」と声を漏らし、

「翔くん!」

 と言って真帆ねぇは僕の所までトコトコと小走りに駆けてくると、改札越しに、

「またすぐに会えるように、おまじないをかけておきましょうか」


「え?」


 言うが早いか、真帆ねぇは僕の前髪をあげると、露になったおでこにちゅっと軽くキスをした。


 隣にいたおねえちゃんが「うわっ!」と声を漏らしてけらけら笑いだす。


「それじゃぁ、また」

 ふふっと微笑みながら真帆ねぇは手を振って、セロと並んで背を向けた。


 僕は顔を真っ赤に染めながら、ただその後ろ姿が見えなくなるまで、見つめることしかできなかった。



 辺りからはセミの鳴く声が、わしわしとうるさいくらい聞こえていた。







 ……蝉の鳴く声・おしまい。





 雨の踊り子~魔法百貨堂~・了。

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