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第5話


――中略――




●●●●年△月


ああ、なんて事だ。


恐ろしく取り返しのつかない物を完成させてしまった。


新型の生物兵器MOSCH(-Mutations of sleeping chrysalises-)だ。


これを国に渡すべきなのかどうかを、私はまだ迷っている。


妻や息子に平和な世界をと望んだだけなのに、想定外なこんなものが出来てしまった。


生み出してしまった事を後悔しているが、科学者の性か『これ』を捨てることも出来ない。


戦争の死者はこれから増えるだろう。


いずれ生まれたばかりの私の息子も戦いへと駆り出されてしまう。


どんな方法でもいいからその前に止めたい。


妻と息子を守るためなら悪魔になってもかまわないと、そう思うのは罪だろうか。


ただ私にその結果を見る勇気はない。


卑怯者だと罵ってかまわない。


見たくない、見たくないのだ。






●●●■年☆月


今日妻が死んだ。


病弱な妻は息子を産んでから寝たり起きたりの生活だったが、通院の帰りに敵国への抗議デモに巻き込まれた。


誰かが投げた火炎瓶が1台の車のフロントにぶつかり、運転手がハンドルを切り損ねたのだ。


争いたいなら勝手にするがいい。


妻を――俺を息子を巻き込むな!!!


アイシャ、君を失って俺たちはどう生きればいいのだ――。


嘘だと言ってくれ。


これは悪夢だ。


誰か早く俺を起こしてくれ。





●●●■年△月


アイシャ。


アイシャ。


アイシャ。


君が居なくなって2ヶ月が過ぎた。


呼んでももう返事する君はいない。





●●●■年◇月


アイシャの死に不審な部分がある。


馬鹿な……。


だが、もしソレが本当ならば……。


調査を開始しよう。





●●●■年◎月


今日、MOSCHを国に渡した。


何度も思い留まろうと思ったが……。


アイシャ、すまない。


私のせいだ。


君の死がアレを嗅ぎつけ欲しがった国に仕組まれたものだったとは――。


私が、君が、産まれ育った愛しかった祖国。


私はもうこの国を愛せない。


君を殺したこの国をどうしても許せない。


君はもういない。


私はどこか壊れてしまった。


だから。


私がアレを渡したのは東の敵国だ。


かねてからの計画通り、俺と息子はこの国を出よう。





●●▲■年▽月


ここはなんて平和なんだろう。


聞きたくない話も見たくない現実も全てが遠い。


わずらわしい事は何もない。


見たこともない多額の報酬でこの島を買った。


どちらの国とも私達の事は忘れ今後一切関わらないと言質をとっている。


――いつまで守るかわからないが。


息子も8歳になった。


元気に成長している。


私に似て飲み込みが早く教えるのが楽しくて仕方ない。


あの垂れた目がいつも君を思い出させるよ。


成長した姿をどこかで見ていてくれたら――いや、君なら天から見ているか。


息子はいずれ私の後を引き継いでこの島を守るだろう。


この”楽園”だけは誰にも壊させない。


向かってくるなら容赦はしない。


障壁の強化を図ろう。





●●▲▽年■月


なんて事だ。


体の不調が続いている。


自分の病名がわかるというのも嫌なものだな。


私はいいが、残される息子が心配だ。


あいつを決して1人にはしない。


何か手を考えよう。





●●▲◎年▼月


病状は進んでいる。


息子には”楽園”を守る知識を全て与えた。


私が死んでもあいつはやっていける。


『これから』を心配しても仕方がない。


息子を信じて私は逝こう。


アイシャ、早く君に会いたい。


君は悪魔になった私を――あの頃のように真っ赤になって目を吊り上げて怒ってくれるかい?





(――ここから先が日本語で書かれている――)





息子に英語以外の字は読めない。


願わくば貴方が日本語を読めるといいのだが。


これまでの経過はわかっていただけただろうか?


自分勝手な狂った悪魔、それがライコの父であるこの私だ。


息子には秘密だが、この島近辺で使われた転移陣の軌道を自動で修正するプログラムを作った。


10~20代の若い女性をターゲットに島上空に転移させるようにしたので、貴方はさぞ驚いたと思う。


すまない。上空に誘導するのが精一杯だったのだ。


この辺りを転移陣で移動する者は滅多にいない。


そして転移陣を使った貴方は一般人ではないね?


貴方が無事だという奇跡のような確率に私は賭けた。


息子も貴方を助けてくれていればいいのだが――。



貴方には本当に申し訳ない事をした。


これを読んでいるという事は、息子と共に居る事を選択してくれたのだろうと思う。


親の勝手で息子をこの島に縛りつけ、貴方まで縛り付ける事になってしまった。


それが正しい事なのか間違った事なのか今でも私はわからない。


どうか許して欲しい。


散々な目にあわせた私を信じられないかもしれない。


だが死に行く私の精一杯で”楽園”に居る限り貴方達を守る事を誓おう。


どうかあれと幸せに暮らして欲しい。


息子をよろしく頼みます。



息子はまだ私を偉大な男だと信じているだろうか?


私の全てを話すかどうかは貴方に委ねよう。


あいつの驚く顔をこの目で見れないのが残念だ。

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