4.そして、本当は誰も魔王を倒したくない物語
「吾輩は……大魔王……で……」
苦しそうに言葉を選ぶミリィを見た瞬間、僕の全身に衝撃が走り一瞬にして全てを理解した。それは1秒にも満たない筈なのになんだかすごく長くも感じて。それはともかく。
「ミリィが魔王? そんな馬鹿なことはない。つまり、あそこに魔王はいない、それを分からせるためにあえて攻撃してきたんだね」僕は聖剣の柄から手を離す。
「ご明察です、勇者殿」ギルベンノは目を細めて大きく頷く。
「…………」ファナは僕にギュッとしがみつく。
そこに創造の女神ディーゼの声が僕達に降り注いだ。
『そうです、そういうことにしておくと全てが丸く収まるのです』
身も蓋もないことを言ってきてる気もするけど、せっかくギルベンノとディーゼがお膳立てしたこの流れ、乗らない手はない。
魔王城に魔王はいない。だから僕達は世界の平和を取り戻すために魔王を探さなくちゃいけない。それまで僕とファナの冒険は続く、それが勇者と聖女の定め――。
「しっかたないなー」僕はみんなを見渡してわざとらしく声を張り上げた。
「みんなで魔王を探そう!」
「…………」ファナがエメラルドの瞳を輝かせながら僕を見上げる。
「ゲハイムヴェルトの目と呼ばれる私の力。必ずやお役に立てましょう」ギルベンノはうっすらと笑う。
『さぁ、お行きなさい勇者よ。皆を真の平和へと導くために』ディーゼがもっともらしいことを言うとどこからか神秘的で荘厳なメロディが流れる。
分かってるじゃないかディーゼ。僕達の冒険はこれから始まるんだ。
そんな中、ギルベンノの小脇に抱えられたミリィと目が合う。なんだかムスッとしてる。
微笑み返すと、ミリィは僕を指差し、ツインテを逆立たせながらこう叫んだ。
「本当は誰も魔王を倒したいと思ってないではないか!」
うん、僕はこれからもずっとこの世界でみんなと冒険をしたいんだ。
天空のどこかでディーゼが笑ったような気がしたけど、それはまた別のお話。
<了>
以下、次回予告風の後書き
【誰も魔王を倒したくない物語・次回予告】
「僕は認めるよ、自分が妄想して創ったファナを好きになってしまったダメ人間だって。だけどダメ人間にだって五分の魂、彼女の声を必ず取り戻してみせるよ」勇者ウィンとして転生した山﨑悟は遂に自分が変人であると自覚した。
「私は喋れなくても勇者様の近くにいつもいられれば幸せなの。そして少しだけでもお世話をさせて頂ければそれで十分。こうやってずっと勇者様の側にいるとなんだか口の端から涎が――って、なんで涎が出てくるんだろ? 勇者様を見ているとどうしても垂れてきちゃう。うん、きっとこれが愛というものね、勇者様イズ・ジャスティス!」ファナは遂にゾンビとして覚醒してしまうのか!?
魔王を倒すためのふたりの冒険は続く、この剣と魔法の異世界ゲハイムヴェルトで。
壮大なスケールで描かれない、光と闇が交差する大スペクタクルでもない、世界の運命を変えなければ壮麗でもない妄想物語。
ふたりの行く手に立ちはだかるのは、
「だってせっかく顕現したんだもん、このまま自由を謳歌したいじゃない。勇者が魔王を倒したら『ありがとう勇者ウィンよ。これからはあなたたち人間の時代です。あたしはこの異世界をあなたたちに託します』とかなんとか言って消滅して終わるのよ。そんなの絶対イヤなんだもん」ダッテモン族の自称美女神のディーゼはコタツに肩までもぐりながらポテチをむさぼり食う。
「ふははは。これでようやく魔王の力が戻ったぞ。召喚の秘術、雑魚女神の専売特許と思うなよ。貴様が作者を転生させたのならば吾輩はこうしてくれるわ!」元魔王である小人のミリィはチャームポイントのツインテを揺らしながら高笑いと共に大魔法陣を生成する。
そして新たなる登場人物達が。
「くんかくんか。ああ、お兄ちゃん、どこ行ったんだろ。絵理、さびしいよぅ――え? お兄ちゃんのタンスを漁ってたら引き出しの中に変な世界が見える――あそこにいるのはお兄ちゃん!? 誰? 私の頭の中に話しかけてくるのは! え? そっちの世界にお兄ちゃんがいることをこちらの世界の人間に広めればなんかよく分からない力でお兄ちゃんが戻ってこれるのね! だったら絵理、お兄ちゃんのためにがんばる!」山﨑悟の妹である絵理は極度のブラコンでありVTuberでもあった。
今度の冒険は実況プレイ配信!?
勇者と元聖女の恋の行方が全世界配信されてしまうのか!!
「父上は必ずどこかで生きている。父上を見つけ出し、魔族の復権を果たすのが魔王の娘たるこの私に課された使命なのだ」
「お嬢様以外の何者にそれがかないましょう」
荒野をさすらう魔王の娘ビアンカは小人になってしまった魔王に出会えるのか!?
「わたくし、ミリィたんのためでしたら勇者殿はもちろんのこと、この異世界ゲハイムヴェルトの全てを敵に回す覚悟がございます。この胸の高ぶりこそがわたくしが数千年かけて探し求めていた究極にしてシンプルな真理、万物の理。深淵を覗く者もまたミリィたんに覗かれる、ミリィたん万歳」長耳をヒクつかせながら恍惚の表情を浮かべるギルベンノは間違いなく変態エルフだった。
異世界と現実世界をつなぐファンタジーコメディ
【 誰も魔王を倒したくない物語 THE MOVIE 】
~ 異世界配信! VTuberは男の娘!? ~
2026年7月公開
この冒険はやがて伝説となる――かも?
COMING SOON
※このあとがきは映画予告風に書いたジョークです。実際には続きません。




