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Ⅲ.絞り取られた者《スクイーズド》3


 《RCV-6》は村の中央に乗り入れた。


 中央といっても小さな広場に面して「コミュニティセンター」と看板の出ている二階建ての鉄筋コンクリートの建物と、その隣に小さな雑貨屋があるだけの寂れた場所に過ぎなかった。


「これがコミュニティセンターでっか」


 車体の上の三沢が顔をしかめた。


「これ公民館とか図書館と違います?」

「呼び名はさまざまさ。双葉二曹、正面につけろ」

「はい」


 戸塚青年の案内でここにたどり着くまで誰一人として住民には出会わなかった。巨大な装甲車が地響きをたてて走行していたのだ。もし誰かが残っていたなら、様子を見に出て来てもおかしくはなかった。


 やはり昨夜の防災放送で避難したのだろう、と一木は思う。だが、だとするとおかしな点もあった。どの家の自動車もそのままになっていたのだ。都会と違い避難には自動車が不可欠なはずだった。


 停車すると一木は命じた。


「四谷、三沢の両名は建物内を探索。責任者を捜し、同時に電話を確保せよ」

「了解・・・武器はどうします」

「携行せよ。ただし、隊員の生命と装備を守る場合を除いて発砲するな。その場合でも危害射撃は厳禁とする」

「了解」


 二人の偵察員が身軽に装甲車から飛び降りる。と、四谷は車長席の一木を見上げて、


「一木曹長どの・・・ひとつ提案をよろしいでしょうか」

「なんだ」

「そちらの戸塚くんに同行していただけると助かります」

「お、俺?」


 おどおどする戸塚。一木は、


「必要なことか」

「はい。アフリカPKOの時も、こうした場合はコミュニティの人間を同行した方が何かとうまくいきました」

「なるほど。戦訓という訳か。戸塚くんさえよければだが・・・」


 青年に向かい、


「どうだろう戸塚くん。彼らに同行してもらえないかな。無理にとは言わない。ただ、村の住民が居た場合、顔を知っている君がいた方が意志の疎通もしやすいと思う。どうだろう」


 そう言われた戸塚は、偵察員の二人と一木の間で視線を泳がせた。


「ま、守ってくれますよね?」

「もちろんだ」


 四谷が即座に答える。三沢も、


「だいじょぶでっせ。あんじょうしますさかい」

「な、なら、い、行きます」


 戸塚はそう答えると、前部偵察員席から苦労して這い出し、地面に降りた。

 すると、後部偵察員席に居たはずのナナが車体の上を伝って、するりと前部偵察員席に滑り込む。


「危ないわ、ナナ」


 双葉はうれしそうに、隣に座った少女に笑いかける。けれど、当のナナは相変わらず無表情だった。


 一木は四谷と三沢に向かい、


「無線は不通なので連絡にはホイッスルを使え。こちらも何かあったら警笛を鳴らす」

「了解。いくぞ三沢」

「はい」 

「戸塚君は後ろからついて来てくれ」

「は、はい」


 §  §  §


 統合指揮所のディスプレイには四角い建物の前に停車したRCVの映像が写し出されていた。


「連中、なんだってこんなところに」


 熊谷のつぶやきに八俣は、


「村の行政機関です。判断としては悪くないのでは」

「バカな。速やかに原隊に復帰すべき状況だったはずだ」


 映像の中では、三つの人影が建物の中に入って行った。偵察らしい。八俣は熊谷に、


「気づきましたか。一人は私服です」

「ああ。途中で保護した住民かもしれん・・・それとも《搾り取られた者(スクイーズド)》か」

「そうは見えませんでしたが」


 熊谷は首を振り、


「情報が少なすぎる。判断つかんな」


 熊谷は目を細めてディスプレイに表示されたパラメータの数字を見た。


「建物の熱映像(サーマルイメージ)は出せるか」

「はい」


 八俣の指示で画像が切り替わる。


「これは・・・」


 息を飲む八俣。


 熊谷は思わず椅子を蹴るようにして立ち上がった。


「いかん!」

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